The PHANTOM of the 図書館 | 『泣きながら歯磨き』

The PHANTOM of the 図書館

(2)図書館が舞台の無音ミュージカル。

 やっぱりな。
 俺は図書館で、どこかで見覚えのある女性の顔を見て、そう思った。
 
 もしも、見ず知らずの人間のちょっとした秘密を、ある程度だが握ってしまったとしたら、さらに知りたくなるのが人間の好奇心と言うものだ。そして、好奇心が強ければ強いほど、その欲求を満たすために、軽率で衝動的な行動をしてまう確立が高くなる。
 この、どこかで見覚えのある女性の行動は、あまりにも軽率だった。

 八月のとても暑い日、図書館の入り口が見える席で、俺は恋愛小説を読んでいた。
 いくら読むのに集中しようとしても、人の出入りがあると、やはりそちらに目が行ってしまい、何の気なしに人の出入りを見ては何事も無かったように(実際、何事も無いのだが)また恋愛小説の続きを読むという作業を繰り返していた。
 俺が小説を読み始めてから約一時間ほど経った頃、何度目かの人の出入りを見た時、どこかで見覚えのある女性の顔が目に入り、目が合った。が、そのどこかで見覚えのある女性はすぐに顔を背けた。
「おまえが顔を背けて、後ろを振り返っても、図書館の怪人はそこにいる。おまえの心の中に!」と叫びたい衝動をやっと抑えて、決して顔に出さないように細心の注意を払いながら、頭の中でニヤニヤ笑った。
 俺は心の底から鼻歌を口ずさみたい気分になったが、図書館では静かにしなければならないというルールがあるので、我慢した。
 だが、俺が我慢して従うルールは、”図書館では静かにしましょう”というルールだけだ。