天国はすごく良い所らしい。だって、行った人が誰一人帰ってこないのだから。 | 『泣きながら歯磨き』

天国はすごく良い所らしい。だって、行った人が誰一人帰ってこないのだから。

ある日の事でございます。
小さな蛾が一匹、がいこつという男の部屋に迷い込みました。
がいこつは、韋駄天の如き素早さで蛾を捕まえまして、潰して殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ」と、こう急に思い返して、とうとうその蛾を殺さずに助けてやったのでございます。

がいこつが蛾の命を助けてやってから数日が経ちました。
昔から、人に助けられた生き物は姿を変えて恩返しにやってくる、というのが世の常でございます。
しかし、待てども待てども蛾はやってきません。
それでも、がいこつは待ちました。

やがて、がいこつは年をとり、蛾の恩返しを待ちつづけたまま、誰も悲しませる事なく召されていったのでございます。


23億年後、がいこつが助けた蛾の子孫は、知的生命体の頂点に立つのでございますが……それは、また別の話。