今日の日記 | 『泣きながら歯磨き』

今日の日記

 春夏秋冬、四六時中、私は普段からうつむきながら猫背で歩いている。とにかく人の眼が怖いのだ。だから、なるべく人の眼を見ないように下を向いて歩いている。
 感情が伝わってくる人の眼よりも、いったい何を考えているのか分からない猫の怪しく光る目を見ているほうがまだマシだ。と、いつも思う。
 
 私の家の近所の山には、とても広い霊園があり、そこには麓と頂上を結ぶ緩い坂道(自動車がちょうど1台通れるくらいの道路)に沿って桜の木がたくさん植えてある。満開の時から比べると、だいぶ花が少なくなってしまったけれど、桜は、まだまだ綺麗に咲いていた。
 今朝5時30分頃、なんの目的もなく山の中の霊園の桜並木の坂道を頂上へ向かって、うつむきながら歩いていると、アスファルトの道路に薄く積もった桜の花びらと、時折ひらりひらりと足元に降ってくる綺麗な桜の花びらが強制的に視界に入った。
 私は、なにも感じなかった。
 
 霊園の頂上には汚い噴水がある。今の時期は桜の花びらが噴水の水面に浮いているのだが、それでもやはり汚いものは汚い。その汚い噴水の近くで、今朝もカラスはカーカーと鳴いていた。
 鳴きながら跳ね回るカラスの黒い身体は、桜の花びらで雪が積もったように白くなっているアスファルトの道路上では、よりいっそう黒く映る。カラスなんて見飽きているはずなのに、少しのあいだ綺麗な漆黒の塊をなんとなく見ていた。 
 私は、なにも感じなかった。

 家に帰ってきてから、少し汗をかいていたので着替えた。
 着替えている途中、パーカーのフードの中に、淡いピンク色のかわいらしい小さな桜の花びらが2枚と、大きめの綺麗な白い桜の花びらが1枚入っているのを見つけた。
 私は、なにも感じなかった。