最近、監査を行う中で「不正への対応」がトピックになっています。要は財務諸表に記載されている数値や注記内容を会社側が意図的に誤らせていないか、ちゃんと目を光らせなければならないですよね、ということ。代表的なのは売上の水増し計上だったり、費用の意図的な計上除外であったりと、内容は業績を良く見せる事を目的として行われることが大多数です。

この「財務諸表の不正」について、公認会計士側には「不正を絶対に発見する義務」という事は制度的に明示されている訳ではありません。財務諸表の正しさを検証する上で、監査の過程で発見することが出来うるものであるため、「不正がないかの検証を行う努力」は求められます。しかし、不正を仮に見つけ出すことが出来なかった場合でも、重過失がない場合には企業により不正が行われていた事を見逃した場合でも免責されます。

世間的には「公認会計士は財務諸表を隈なく調べ切って、誤りも不正も全て防ぐことが出来るし、それが義務だ」との思いがあると思います。個人的には(全てとは言い切れませんが)誤りについてはかなりの程度で防ぐことが出来ると思います。会社による隠蔽がなければ、基本的に資料を追って行くことで正しいか、誤っているか確認できるからです。しかし、不正について。正直どこまで監査人によって発見することが出来るのか甚だ疑問に思います。

不正は当然、会社の経営者や重役などが会社の業績を歪曲させようとする趣旨で行うもの。何とでもバレるのを阻止しようと、真実の姿を何重にも包み隠そうとします。それも単独で行われるのであれば未だしも、複数人のグループで隠蔽しようと目論んだ場合、果たして不正を見破れるのでしょうか。

例えば、次の様な不正のケースを考えます。

A企業では、当年度に競合企業の間で係争事件があり、最終的に自社が多額の和解金を支払うことで妥結しました。しかし、この和解金を特別損失としてしまうと、一転黒字業績をから赤字業績に転落してしまいます。この事態を避けるべく、経営者はこの「和解金」をB/Sに計上して損失の繰延を図ることを考えます。丁度、事業用資産への投資を進めていた時期でもあることから、多額の投資を当年度に行った、との建前で資産計上を行うことを画策します。

資産計上するためには、①和解金を支払ったという事実は秘密裏にしておくこと、②資産計上するために、架空の事業用資産を購入した、という虚偽の事実を作り上げなければなりません。①については一切口外しない、監査人にも、経営者会議議事録にも残さなければそんなに難しくはないでしょう。では②についてはどうでしょうか。

おそらく、この様な流れになるのではないかと思います。まず、投資拡大中であることから実際の事業用資産購入も行なっており、「事業投資の拡大」という大きなテーマ自体は嘘ではないという状況を保つ。次に、多額の和解金金額を比較的小さな金額に分割し、ベンダーへの発注・購入・納品書類を偽造する。関連資料を偽造し、完璧に揃えられればあたかも多数の資産を購入したかの様に見せかけることが出来てしまいます。

さてこの場合、公認会計士はどの様に不正を見破れるでしょうか。経営者・重役は和解金の事は喋らない。普通の従業員はそもそも和解金の事など知らない。資産購入・納品に関する資料は偽造の上、完璧に揃っている。もし仮に監査人側が実物を確認したいと言っても、例えばソフトウェアの様に金銭的価値が分かりにくいものなどであれば一見した位ではその価値が如何程かなど分かりません。相対で取引したとされる資料から、購入価格について判断するしかない。

恐らく、95%以上、会計士は見破れないと思います。はっきり言ってしまいますが、会計士は存在する資料から数値が正しいかそうでないか判断するからです。もちろん実物を確認することもしますが、巧妙に購入した実物であるかの様に見せ掛けることで会計士を欺くことは十分可能です。

聞いた話ですが、ある銀行員は会計士について「会計士を騙すことは簡単だ。奴らに資料を与えれば良い」と言ったそうです。この言葉が本当に言われたかは別として、正直、当たっていると思います。会計士は国税調査官の様に強制捜査権は持っておらず、基本的に資料の確認・担当者へのヒアリング・実物の確認・外部確認の手続を会社の同意の下、行います。勝手に会社の資料や内部立ち回り、外部照会など出来ません。もしそんなことを行った場合には監査クライアントから外れる(=契約解除)となるでしょう。不正を行っている会社ならいざ知らず、疚しい所のない企業にとって疑いの目を掛けられて過度な監査を受けなければならないとすると、他の監査法人に切り替えようという気持ちも出て来てしまう。こうなってしまうと監査法人にとっては痛手。結果、公認会計士による監査は完全に無条件に行えるものではなくなります。こうしたこともあり、経営者としても多少ロジックを作りさえすれば本当に痛い所を回避することが出来てしまいます。

不正を行っているかどうか分からないながらも、企業に対して、クライアントの了解の下、資料確認・ヒアリングを行う他、監査のやりようはありません。よくドラマで見るような、検察による強制捜査で物件差押え、(企業側が立会いながらも)敷地内の立ち回りが出来る、という状況と比較すると、やぱり不正を完全に検出出来ると言える様な環境にはないと思います。

現在まで複数年間監査業界に携わってきましたが、不正案件を監査人側で発見できた例は見聞した中で1~2件程度。その一方で不正案件が発生した件数は10件以上。そのほとんどは企業側からの内部通報によって発覚したものです。

会計士の置かれた状況や、過去の不正発見事例を見ていると、「会計士は不正を発見することがどれ程出来るのか」いつも考えます。全くの無駄ではないですし、「不正を見つける」という会計士側の姿勢が企業の不正実行を抑止している「かも」しれません。

ただ、やはり「会社の方の”誘導”や”引き止め”がある中で、どこまで不正をちゃんと見つけ出していけるか」について、私個人としては限界があるような気がしています。