注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
あなたと始める物語は。12
〜 re-start ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作
フレンチプレスで淹れたコーヒーを飲みながら、パラパラと旅行雑誌を捲っている時にオーナーから連絡が入った。
『ごめん、愛優香さん! いまどこ?!』
「家にいますよ」
『30分したら迎えに行くからエントランスの前で待ってて!』
そう言って慌ただしく電話を切ったオーナーが車に乗って現れたのは指定された時間きっかり。
「本当にごめんなさい。 あの人、言い出したらきかないから」
あの人?
一体誰のことを…と思っているうちにとあるビルに着いた。
「ここって……」
ビルの壁にはたくさんの流れ星を象った装飾と〈スター・プロモーション〉の文字。
もしかしなくても、数多の男性アイドルグループを輩出し、ヒットさせている芸能プロダクションだ。
この前から何かと縁がある Wave もここに所属している。
「やりたくないなら断ってくれていいから。 本当にごめんなさい」
「えーっと…?」
彼女はさっきから謝り続けてはいるけれど、そうは言われても何のことか全く以て想像できないために曖昧な返事をする。
オーナーが地下駐車場への入口で守衛さんと言葉を交わし、何か札のようなものを受け取って車は構内へと進んでいった。
車を降りて駐車場構内を歩いていくと、やがて辿り着いた地下エントランスの前では飯田橋さんが待っていた。
「早かったわね。
こっちよ、付いてきて」
「姉さん、無理強いはしないでよ!」
オーナーの言葉に飯田橋さんはテキトーな返事をして歩いていく。
どこの会社にもあるような地下エントランスからエレベーターに乗り、これまたどこの会社にでもあるような廊下を歩いて、飯田橋さんを先頭にして入っていった部屋には Wave のリーダーである本多一磨が待っていた。
ナゼ彼が?
本当に何がなんだか。
着席を促されて会議テーブルのパイプ椅子に座っていきなり、飯田橋さんにとんでもないことを言われた。
「姫榊さん、あのマンションでこの子たちに食事を作ってくれないかしら」
「…………はい???」
料理を作れって?
この子たち…って、まさか、彼ら Wave に?!
突拍子もなく信じ難い話に頭の中がグルグルと回る。
こんなこと言っちゃあなんだけど、私って彼らにとって、会って間もない得体のしれない人間だと思うんだけど。
そんな人間に事務所の看板である大切な彼らの食事を作らせる?
正気ですか???
そこでふと、少し前の会話を思い出した。
確か、料理は出来るのか、と。
まさかその時からとんでもない事を考えてらした?
「あの!
確かに多少は出来るとは言いましたけど、あれはあくまでも一人暮らしの人間としてです。 とても他人様に振る舞うほどのものでは。
そもそも皆さん、私のこと、全く知りませんよね? 大丈夫なんですか??」
すれ違っただけの相手にどれだけ無謀なことを言ってるのかを遠回しに伝える。
ちゃんと栄養バランスを考えるならその方面のプロに頼むべきだし、手作りに拘るなら何も私じゃなくても家事代行の会社に依頼すればいいと思うのだけど。
なんなら、募集すれば腕自慢のファンのコたちがわんさかと応募すると思う。
「豪勢な料理を出せって言ってるわけじゃないのよ。 この子たちにはアレルギーのある子は居ないし、姫榊さんが食べたいものをこの子たちの分も合わせて作ってくれればいいの」
いやほんと、正気ですか?この方。
と言うか、これって一般人を巻き込んだドッキリなんじゃ?
思わずキョロキョロと辺りを見渡すけれど、それらしきものはなさそうだ。
「食材費はあなたの分も合わせてこちらの経費で。 あと、この子たちと同じ階に一部屋余ってるからそちらに引っ越してもらって、そこで生活してくれれば家賃も水道光熱費も経費で落とすようにするからあなたの生活費は掛からない。 悪い条件じゃないと思うけど」
この東京でこれからしばらく無職となる私にはとーーーーっても魅力的な条件だとは思いますが。
何度でも言うけど、ほんと、正気ですか?
私、調理師免許やら衛生管理者の資格やら持ってませんけど??
いや、それよりも、全くの一般人のド素人が自分たちの食事を作ることに彼らは納得してるのかしら?
「確かに条件は悪くないですけど、その、彼らの了承は得ているんですか?」
と、飯田橋さんの隣に座っている本多一磨に目を向けた。
すると、その意図に気付いてくれたのか、
「ああ、僕らはみな大歓迎ですよ」
と微笑まれてしまった…。
彼らは他人を疑うことを知らないのだろうか?
家事代行サービスを生業とさえしていない全くの一般人が自分たちのテリトリーに入ろうとしているのに。
「次の仕事を探しながら圭子の手伝いをすることになってるでしょう? それと同時にしてくれれば構わないの。
見つかるまでの間だけでも何とかお願いできないかしら」
次の就職先を探しながらでいいのなら、確かに好条件だ。
実際のところ、いくらお店の手伝いをするといっても3ヶ月分のあの家賃を免除してもらうことについて気が引けていたのは確かである。
「…本当にド素人料理ですよ? それでも?」
「もちろん! 助かるわ!!」
飯田橋さんがそう言った途端、他のメンバーたちがなだれ込んできた。
「えっ!?」
「よろしくね!」
異口同音に告げられた言葉に私は、歓迎されていないわけではないようだ。
…………というか、オーナーに家賃の相談をしてからここまで僅か3時間。
早すぎる展開に唖然とするしかなかったのだった。
〜 to be continued 〜