当、創作妄想2次小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
このお話は、諸般の理由によりアメブロでの公開を控えている『驟雨-shower rain-』(夢小説HP・上弦の月の影の中で★ANNEXにて掲載)第4章以降の藤崎義人ルートとなります。
中西京介ルートよりはるかにお話の展開が早い^^;
『淡雪』に出てきた人間関係も若干変わりますがご了承下さいませ(汗)
驟雨-shower rain- Ⅳ −藤崎義人ルート−③
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《ダーリンは芸能人》二次創作小説
何かに呼ばれたような気がして、部屋を出て湖の畔へと向かう。
眼の前に広がるのは、北海道の中でも上位を争う広さと国内トップクラスの最深度を誇り、また、透明度が高いことで有名な湖だ。
何万年も前に起きた大噴火が起因のカルデラ湖でもある。
(そう言えば海尋が好きだった小説の中にこの湖を題材にした―――)
そこまで思い出して、はたと気付いた。
(ああ、またか…)
彼女と別れて数ヶ月の間は何とかして忘れようとしたけれど。
彼女が失踪してからこの数年の間はこうやって不意に思い出すことが多かった。
忘れたくても忘れられなくて、思い出したくなくても彼女の一挙手一投足が思い浮かんだ。
控え目な愛情表現。
天真爛漫な笑顔。
くるくると変わる表情。
喜怒哀楽がすぐに表情に出るくせに、演技になると一瞬にして冷たい人間にも狡猾な人間にもなる。
(こんなにも鮮明に思い出せるのに…)
きっと、何年経っても彼女を忘れることなんて出来やしないだろう。
そんなことを考えながらただただ湖畔の道を歩き続けていた。
―――それからどれくらい歩いただろうか。
湖から僅かに離れた林の遊歩道に一つのベンチを見つけた。
誰かが座ることを待ってるかのように、木々の合間から零れ落ちる木洩れ日がそのベンチを照らしている。
何かに導かれるようにその方向へ足を向け、オレはそこに腰を下ろした。
その場所から見える湖面は光を優しく乱反射させていた。
(静か、だな)
一人でいるときの静けさとは何かが違っていて。
辺りをそよぐ優しい風の音や木々の葉擦れの音。
都会の中にいるときとは違う、自然だけが奏でる音は心を穏やかにさせる。
それからオレはクラッチバッグに入れたままにしていた文庫本を取り出して読み始めた。
本当に久しぶりに、思考が感情に邪魔されずに本を読むことが出来ていて、言葉の一つ一つが頭の中に入っていく。
が、何ページか読み進めた時だった。
「こんにちは」
突然、小学生くらいかと思われる女の子が目の前に現れた。
ツインテールを赤いリボンで飾り、繊細なレースをあしらった淡紅藤色のワンピースを着た少女。
しかしながら、あいにくとこの地に知り合いは居なかったはず。
誰か他の人に声を掛けたかとは思ったが周りには誰もいない。
それでも物怖じせずにじっと見つめるその瞳は誰かに似ていて、だけど思い出すことは出来なかった。
「まぁ、小さな字がいっぱい。 おにいさまは読書家さんなのですね」
オレが手にしている本を覗き込んでは感嘆の声を上げ、ニコニコと笑っている。
その笑顔さえどこかで見たことがあるような気がして、だけどやはり思い出せずにいた。
「よしの、帰りますよー」
「あっ、大おばあさま!」
突然聞こえてきた、少し離れたところから呼ぶ声に女の子は応える。
その声の方を見ると銀髪の老婦人が上品な微笑みを浮かべながらこちらへと歩いてくる。
が、近くまで来たとき、その人は突然歩みを止めた。
「!! あなた…」
「?」
「大おばあさま? どうかしたの?」
オレの顔を見た老婦人が一瞬目を見はる。
意外なものを見たとでも言うように。
しかしその表情はすぐに消えて、始めの時のような上品な微笑みを浮かべた。
「お邪魔ではありませんでしたか?」
「いえ…」
「おにいさまって読書家さんなのよ? 小さな字がいっぱい書いてある本を読んでるの!」
「…そう言えば、あなたのお母さまもたくさん本を読んでいたわ」
「お母さまが? じゃあ、大おじいさまの書斎にあるご本の中にお母さまが読んでたのもあるの?」
「ええ。 …いまはあまり読まなくなったけれどね」
そう言って老婦人は不意に顔を曇らせる。
二人の会話を聞いて、海尋のことを思い出した。
彼女も本が好きで、重なったオフの日にオレの部屋で1日中本を読みふけってたっけ…。
そんな小さな思い出さえ、今でもオレの心を揺さぶる。
そんな時だった。
「……早く帰らないとまた『みひろ』さんが心配するわ」
知らない誰かの口から出る、愛した人の名前。
全く予想もしていなかっただけに心臓が止まりそうになる。
―――『みひろ』…?
―――偶然の一致??
―――それとも…。
「大おばあさま、お母さまは心配しすぎだと思うのだけど」
「それだけあなたのことが大切なのよ」
「それは分かっているけれど、私、もう4年生になるのよ? ちゃんと気をつけてます」
そう言って女の子は頬を膨らませる。
そんなやり取りの中でわかったのは、大人びた話し方をする目の前のこの子が8歳か9歳だということ。
ーーー海尋が失踪してから何年経った?
始めのころは日を追っていたが5年を過ぎた辺りからもう数えなくなって…。
「もう少しおにいさまとお話ししたかったのに。
あっ、そうだわ! おにいさま、うちにいらして?
ねぇ、大おばあさま、いいでしょう?」
拗ねたように吐き出された言葉に我に返り、思わず尋ねた。
「……君、名前は?」
「私? 『しどうよしの』です」
「―――っ!!」
しどうよしの…紫藤…みひろ…海尋―――。
そして女の子が誰に似ているかと思い付いた瞬間、オレはベンチから立ち上がって叫ぶように言った。
「あの…!」
「はい?」
「突然、こんなことを言われても不審に思うでしょうが…この子の母親に…海尋に会わせて下さい!」
「おにいさま…?」
ほんの数分前に知り合っただけの赤の他人を受け入れてくれるはずもないのに、オレは必死の思いでその老婦人に頭を下げた。
〜 to be continued 〜