注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
2014/11
南の島にて with 三池亮太 12
~ Southern Island's requiem ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作短編
「義人くん!」
黒く濃い靄に包まれた彼が再び立ち上がり、朱く光る瞳で私たちを凝視する。
それからは禍々しい邪気が感じられ、部屋に充満した黒い靄は私たちを包んで酸素を奪っていった。
(息、が……)
もうダメかもしれない…そう思ったその時、今度は白い靄が私たちを包む。
一瞬にして呼吸が楽になっていく。
『!?』
人の形を象る濃く黒い靄が怯むように見えたかと思えば、砂を洗い流すかのように部屋を満たしている薄く黒い靄が消えていった。
その靄が消えると、軍服を着た清吾さんらしき姿が義人くんの身体と重なって現れて…。
それは私があの日に島北部の崖で見た人だった。
『君たちの思考に触れて分かった……。 本当に、戦争は終わってるんだな…』
「!」
『北部の洞窟に潜んでた時に誰かが私を呼んで、その後に聞こえてきたのは耳をつんざくような音で…それ以降のことは記憶にないんだ…』
その言葉で『彼』がどんな目に遭ったのかが推測出来た。
今回このドラマのオファーを受けた後、演技の参考になるかと現存する資料でこの島の当時の様子をみんなで調べたわけだけど、その時に目がいったのは、戦局が終わりに近づいた頃のある話だった。
相手国の軍によって島の至る所で爆撃され、家を失った人たちが島北部へと追い詰められた中で。
軍民一体の精神を刷り込まれていた人たちが捕らえられたら凄惨な目に遭うという話を完全に信じ、投降を厭って断崖から飛び降りた話は、地名として残るほどわりと有名であるから知ってはいたけれど。
それとは別に、一部の人たちは洞窟に隠れて反撃の期を狙っていたものの、そこに手榴弾が投げ込まれたという話があるのを初めて知った。
『彼』が語る内容から考えると潜んでいた洞窟でも同じことがあり、『彼』はそのままそこで死を迎えたのだろう。
それを想像した途端、私の頬に涙が伝っていく。
「海尋?」
「あ…何だか急に涙が…」
『…君は他人のために泣けるんだな…。 彼女も…鞠子さんもそういう人だったよ…』
何故か次から次へと溢れては流れる涙を、亮太くんが「ハンカチ持ってないや」と言って自分のTシャツの裾で拭ってくれた。
『それから……次に気が付いた時はあの崖に立っていて、君たちを見つけたんだ……』
島北部にみんなで訪れた時に私が見たのがその時だったと言うことか。
そして『彼』は義人くんにとり憑いて…。
『鞠子さんとは約束していた。 もう一度この島で会おう、と。
だが、鞠子さんは日本に帰ったまま二度とこの島に戻って来なかった。 私を裏切ったんだ……!』
「裏切ったのかどうかわかんないじゃない! 来られなかったのは絶対に何か理由があったんだよ!
あなたは愛した人が信じられないの……?!」
感情的になった『彼』の周りの黒い靄が再び渦巻き始めた時、私は『彼』の心が占める黒い感情を何とか宥めようと必死に語った。
そんな苦悩する『彼』の表情を見た時―――。
『清吾さん……』
『!』
「!!」
私の口から、私じゃない人の声が出た。
と同時に、私の身体を白く発光する靄が覆った。
~ to be continued ~