注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
南の島にて with 三池亮太⑤
~ Southern Island's requiem ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作短編
翌朝。
朝食に行くために軽く身支度をして部屋を出ると、ちょうど亮太くんたちが前を通ろうとしていた。
「おはよう、海尋ちゃん。 よく眠れた?」
「おはよう。 うん、まぁまぁ」
二人並んで他愛のない話をしながらみんなの後ろを付いていく。
昨日と同じダイニングルームが朝食の会場で、バイキング形式のお料理を取って亮太くんと同じテーブルに着いた。
今日からこの島での撮影が始まるわけだが、昨日の今日で義人くんの様子が気になった。
さり気なく彼の方を窺うと、いつもと大して変わらないように見える。
「…義人、昨夜のことは覚えてないみたい」
誰にも聞こえないレベルの声でコッソリと亮太くんが教えてくれる。
どうやらお酒が入って前後不覚になり、感情が抑えられなかったり話が飛躍してたりしたのだろうと皆で結論づけたらしい。
でも、それだとマイクロバスでの彼の様子は説明出来ないのだけど…。
「ちょっと落ち込んでるみたいだからツッコまないであげてよ」
「え? ああ、それはもちろん…」
その時、ふと視線を感じて顔を上げると、義人くんがこちらを見ている。
視線が交わったあと、彼は顔を戻して、また食事を始めた。
それから2時間後、撮影が始まった。
まずはドラマ冒頭の、暑い日差しの中で二人が砂浜で出会うシーンから。
散歩中の令嬢マリコの帽子が風で飛ばされ、それを休暇中の青年将校セイゴが拾って渡す際にお互いに一目惚れするという設定だ。
「よーい…アクション!」
監督の言葉に大型ブロアーで風が起こされると、被っていた帽子が飛ばされ、私の髪が靡く。
『あ…っ』
飛んでいった帽子は義人くんの足元に転がっていき、それを彼が拾った。
『あ、あの、ありがとうございます』
『いいえ、お気になさらず。
すごい風でしたね』
『はい…』
お互いの顔を見、一目惚れを表現するがごとく、金縛りにあったかのように見つめ合ったまま動きを止める。
その時、遠くの方からマリコの婚約者であるカツキが彼女を呼ぶ。
我に返るふたり。
マリコはすぐに帽子を受け取ってのち、頭を下げてその場を小走りで去る。
そんな彼女の後ろ姿をセイゴが見つめ続ける…というところまでがワンシーンだ。
セリフがほとんどないために演技に気を遣ったけれど、初回でOKが出た。
それからは粛々とパーツを作るようにシーン撮影をこなしていき、予定していた今日の自分の分のシーンを全て無事に撮り終えることが出来た。
「シーン35、アップでーす」のADさんの言葉に肩の力が抜ける。
「お疲れさまでしたー」
現場撤収作業中のスタッフさんたちに挨拶をして、マネージャー代わりのモモちゃんと一緒にその場を後にした。
部屋でモモちゃんにメイクを落としてもらいながら話題になったのは昨夜の義人くんのこと。
モモちゃんも何だかいつもの雰囲気とは違うと感じたそうだ。
「いつからあんな感じだったのかしら?」
「うーん、昨日、ホテルに着くまでは何も感じなかったよ」
「打ち合わせ中も普通だったわね」
「バスで出かける前もいつも通り。
……でも」
「でも?」
「北部エリアから帰るバスの中では、なんとなくいつもと雰囲気が違ってたような…」
次の瞬間、私の髪を梳かしていたモモちゃんの手が止まった。
「モモちゃん?」
「…北部エリア? あの、断崖絶壁のある?」
「うん」
「ちよっとやだ! もしかして付いてきたんじゃ」
「なにが?」
「ユーレイ」
「ぎゃーっ、ぎゃーっ、ぎゃーっ、止めて止めて止めてモモちゃん!!」
私はオンナノコらしからぬ悲鳴を挙げ、耳を塞いでモモちゃんの言葉を遮る。
「あら、ごめんなさい。 海尋ちゃん、苦手だったわね」
「うう…」
苦笑しながら頭をポンポン撫でて謝るモモちゃん。
彼の「もう言わない」の言葉に私は涙目になりながら塞いでいた手を耳から離した。
「でもまぁ…、今日はいつも通りだったし、もう大丈夫じゃないかしら」
「そうだね…。
明日の撮影もうまくいくといいな」
日差しで火照り気味だった肌を整え、最後に冷感パックを施されてモモちゃんのアフターメイクが終わる。
20分したら取っていいわよと、彼は部屋を出ていった。
そうして、それからの義人くんはいつもと変わりなくて、数日間の撮影は滞りなく行われたのだった。
〜 to be continued 〜