注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
2014/11
南の島にて with 三池亮太⑦
~ Southern Island's requiem ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作短編
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トラブルらしきものが初日に起きただけで、この2週間ほどはいつもと変わりないロケだった。
……とは思うけれど、一昨日から何故か亮太くんは京介くんとともに義人くんの動向を注視している。
理由を尋ねても二人ははぐらかすばかり。
そしてとうとう、令嬢と青年将校の愛を確かめ合うシーンを撮る日がやってきた。
『まさか許婚がいらっしゃったとは』
『親が勝手に決めただけなんです、私は…私はあなたが……』
『マリコさん…』
『ああ、どうか…どうか今だけ…』
そう言って台本の通りに義人くんの腕の中に飛び込む。
『セイゴさん、このまま私を』
『マリコさん…!』
そして台本の通りに両方の上腕を掴まれて体を離された後、お互いに見つめ合うシーンなのだけど……。
「……!!」
その時の胸が締め付けられるような義人くんの表情にドキンとする。
これまでも彼の演技には定評があるものの、恋愛ドラマの男女関係の機微の部分に関しては、良くも悪くも普通だと言われている。
恋愛経験がないのではと揶揄する声もあった。
だけど、今回はいつもと違って恋愛感情の襞を表すような演技をしていて。
『……貴女を奪っていけるのなら私は…、いや、軍人としての責務が……』
愛情と背徳と使命感に挟まれて苦悩するような表情。
これが演技だということを忘れてしまいそうなほど、私は彼に魅入っていた。
「カット、カーット!
海尋ちゃーん、どーしたのー」
「え? …あ」
監督の声に、自分のセリフが抜けてしまったことに気付く。
それほど義人くんの迫真の演技に捕らわれていたのだ。
いや、迫真の演技という言葉以上に真に迫っていたというべきか。
「ご、ごめんなさいっ!!」
「はーい、シーン、頭からよろしくー」
「すみません、お願いします」
駆け寄ってきたメイクアシスタントさんに汗を抑えてもらい、周りのスタッフさんたちに頭を下げて立ち位置に付いた。
「ごめんね、義人くん」
「…」
申し訳なさに謝罪するも、返ってきたのは沈黙で。
その瞳は私を見ているようで見ていなくて、どこか遠くを、そして別の誰かを映しているかのようだ。
「…義人くん…?」
「シーン62……アクション!」
ほんの少し気付いた違和感に彼の名前を呼ぶけれど、監督の掛け声に伴って演技に集中する。
そして先ほどと同じセリフを繰り返して、突っかかったところに差し掛かった。
夕方から夜にかけての背景が必要なために後はなくて、今度は大丈夫と自分に暗示をかけて義人くんと見つめ合う。
『……貴女を奪っていけるのなら私は…、いや、軍人としての責務が……』
『セイゴさん…悩まないで…。
一夜だけでいい…今夜一夜だけ私を』
このセリフで義人くんが私を強く抱きしめる。
そしてカメラからは見えないようにキスのフリをする…はずだった。
(…っ!)
唇が触れたと思った次の瞬間、激しく口づけられた。
彼の舌で唇がこじ開けられそうになるものの、それだけは何とか阻止する。
本当は突き飛ばしたかったけれど、時間を考えるとここでNGを出すわけにはいかず。
予定していたよりも少し長いキスシーンの後、唇を離されると同時にどちらからともなく寄り添い合い、砂浜の隅にある小屋へと歩き出した。
その小屋で青年将校と令嬢は初めて結ばれることになるのだ。
…が、そういうシーンは今回のドラマには入らないため、「カーット!」という監督の声で私と義人くんは歩みを止めた。
撮れた映像を確認して今日の撮影は終了する。
「シーン62、アップです!」
「ありがとうございました」
私は隣にいる義人くんに顔も向けずに「お疲れさま」とだけ言って、小走りでモモちゃんのいるところへ向かった。
撮影用のメイクを早く落としたかったのもあるけれど、なんとなく…なんとなくだけど、義人くんが怖くて早く離れたかったのだ。
~ to be continued ~