このお話は、諸般の理由によりアメブロでの公開を控えている『驟雨~shower rain~』(二次創作裏夢サイト【上弦の月の影の中で★annex】にて鍵付き公開)のヒロイン目線となります。なお、原案原作至上主義の方の閲覧はご遠慮下さい。
!注意!
人間関係の一部において原案原作とは異なる部分があります。
淡雪 ~『驟雨-shower rain-』ヒロイン目線~63
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《ダーリンは芸能人》二次創作小説
帰り着いてすぐ隆実お兄ちゃんに連絡を入れた。
「あ、隆実にいちゃん? いま家に着いたよ」
『あぁ、疲れてるとこ悪いな』
「ううん、大丈夫。
で、何かあったの?」
『……海尋は、どうしてもその子産むんか?』
「え、なに、いきなり」
『どちらにも知らせんっちゅーことは、未婚のままで産むわけやん?』
「うん……まぁ、そうだね…?」
なんで今頃?という疑問符を頭にいっぱい浮かべながら、隆実お兄ちゃんの言葉に疑問符をつけて同意する。
妊娠したことが分かってかなり動揺はした。
だけどあの日はちょうど出来やすい日だったのは確かで、心のどこかではやっぱりという思いはあった。
ただ、わずか1日違いで京介くんにも義人くんにも抱かれたためにお腹の子の父親がどちらかは分からない。
けれど、だからといって闇に葬ることは考えられなかった。
子どものDNA検査をしてどちらが父親かを明らかにすれば、……いや、父親が京介くんだったなら wave は確実に空中分解するだろう。
それだけは何がなんでも避けたいからこそ、彼らには告げずにひとりで産むことにしたのだけれど。
『…俺の親父の親戚に北海道で医者やってる人がおる。 小さい町の診療所で、その奥さんが確か助産師さんやったから、アテがなかったらその人ら訪ねたらえぇ』
「あ…」
すっかり頭から抜けていたけど、無事に産むためには医師や助産師を頼った方がいいのは確かだ。
たとえ引退してからにしても、ある程度は顔が売れているために助産施設に通っていることがマスコミに知られたら余計な詮索をされるのは必須。
前に隆実お兄ちゃんとの話の中で出てきた女優さんが海外で極秘出産したのはそれを避けるためだったのだろう。
「ありがとう、ものすごく心強いよ。 アテなんてないから、お願いすることになると思う」
『そーか。
ほんじゃ、細かいことは叔母さん交えてまた話そうか』
「うん」
『でな………』
そこまで言って、電話の向こうで隆実お兄ちゃんが通話を終えるでなく口を閉じた。
「隆実にいちゃん?」
『ホンマはな…』
「うん?」
『…俺が父親になろか、なんて思てたりもしたんや』
「えぇっ?!」
『でも、よーく考えたら、血のつながらん子を愛せるかっちゅーたら、大丈夫やさかい任しときって断言できへんなぁって思てな』
それこそ正直な話だ。
血の繋がりがあるわが子は無条件で愛せても、継子をもそう出来るかといえば難しいと思う人もいるだろう。
もちろん、血がつなかってなくても大切にしてる人は世の中には居るだろうけど。
ただしそれは、その相手の人生ごと、もちろん継子をもひっくるめて心の底から全身全霊で愛してて信頼してるからこそ出来ることだとも思う。
『………それに、海尋のことは従妹としては好きやけど、産まれた時から知ってるから今更オンナとして見れんしな』
「は? ひど! 隆実にいちゃん、ハッキリ言いすぎ!!」
『あはは、スマンな。
でもな、従兄として何としても助けたいのはホンマやで。 協力できることは協力するから、ちゃんと言うてな』
その言葉がどれほど勇気づけてくれるだろう。
近くにいる知ってる誰かが助けてくれる。
手を差し伸べてくれる人がいる。
それだけでもすごく心強いんだ。
「うん、本当にありがとう。
………隆実にいちゃん、大好き!」
『おう。 またなー』
私の「大好き」という言葉に軽く返事をして隆実お兄ちゃんは電話を切った。
---そうして、私は芸能界を引退すること、お腹に子どもがいて未婚のまま出産することを親に伝えた。
引退については何も言われなかったものの、後者については当然激怒され、理由を聞かれても全て沈黙で押し通した。
理由を明かして万が一彼らがバラバラになってしまうことの方が私には耐えられないのだ。
何とか親を説得して、北海道に住むという隆実お兄ちゃんの親戚を頼ることにし、一つずつ問題をクリアしていく。
そして、向こうでの受け入れ体制が整った段階で精神的な理由で芸能界を引退したい旨を親から山田さんから伝えてもらった。
もちろん簡単には納得してもらえず、現在は契約中のお仕事はないからとりあえず無期限療養という形にはなった。
けれど、『紫藤海尋』という名のアイドルがもうこの世界に戻ってくることはない。
この世界での思いも記憶も全てを心の奥深くに封じ込めて、私はお腹の子どもとともに生きていくのだから。
一人暮らしをしていたマンションの家財道具を全て搬出し終えた。
ここを引き払って私はこのまま北海道へと向かうことになっている。
もちろん、京介くんや義人くんには行き先を知らせずに。
お気に入りだったシロクマのぬいぐるみに『さよなら』とだけ書いたメッセージカードを持たせて寝室だった部屋の隅に置いた。
これを見て「カレ」はどうするだろう?
私を探すだろうか。
それとも、また一人いなくなっただけだと気にも留めないかな。
近いうちに会えるかどうかを尋ねたメールに返ってきたのは『明後日の夜に』。
『待ってます』とだけ打ち込んで返信し、電源を落とした。
そして新しく契約したスマホから隆実お兄ちゃんを呼び出す。
「終わったよ」
『そーか。
羽田まででえぇんか?』
「うん」
『あと20分くらいしたらマンションの下に着くわ』
「分かった。 面倒かけちゃうけど、お願いね」
隆実お兄ちゃんとの通話を終えて、2台のスマホをカバンに押し込んだ。
そして何もなくなった部屋を見渡す。
ここで、オーディションに落ちて悔し涙を流したり、希望した役を貰えた時は必死になって台本を覚えたりした。
社長や山田さん、モモちゃんに励まされて私なりに頑張ってきた。
そして、この部屋で義人くんや京介くんに愛されて---。
「……さよなら…」
いつかまたなんて言わない。
私のことを覚えていてほしいなんて願わない。
これから私が歩む道と彼らの道がいつかどこかで交差することはないのだからと、浮かぶ涙を拭って私は部屋を出たのだった---。
~ end ~