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Staticeの花言葉とともに with 中西京介89
~ダーリンは芸能人・妄想2次小説43~
廊下に出て、鳴り続けるケータイの通話開始のボタンを押す。
「はい、紫藤です」
『あ、佐倉です。 いま大丈夫ですか?』
「ええ、大丈夫です。
あの、何か進展が…?」
『えぇっと…、本来なら直接お伝えすることはNGなんですけど、香月さんから急かされまして。
…岡本が全て自供しました』
「!」
『中西さんの分だけじゃなく、紫藤さんへの脅迫の件も本人がやったと」
「…え? 私、の……?」
思いもかけなかった言葉にそれ以上返す言葉が出ない。
京介くんに加えられた危害については思っていた通りだけど。
私への脅迫状も、ってどういうこと?
あれは京介くんの狂信的なファンがやったんじゃないの?
書いてあった内容からもそうとしか読み取れなくて、私のファンって言ってた岡本さんがあの脅迫状を??
少し混乱している私の耳に、電話の向こうで佐倉さんを呼ぶ声が届いた。
『あ、すみません。 あの、詳しいことは追って連絡します!』
言葉を返す間もなく、新たに生まれた小さな疑問を聞きただすことも出来ず、佐倉さんからの通話は途切れてしまった。
しかしながら、これで京介くんが被害者となった事件と私への脅迫状の件はひとまず幕を下ろしたことになる。
あと残るのは、マナミさんの件と……。
「……」
右手の小指で淡く光るそれを見る。
幸せを逃さないようにと着けた、アクアマリンのピンキーリング。
全てが終わって…京介くんと幸せな未来を築けるようにと、私は右手を左手で包むようにして願いを掛けた…。
そして、その翌日の夜おそく。
京介くんとともに佐倉さんから呼び出され、私たちは指定された香月さんのお店に向かう。
結局あれからマナミさんは何も話さなくて、とうとうwaveのチーフマネージャーである飯田橋さんが痺れを切らし、話し合いを打ち切ることになった。
最終的にただ時間を無駄に過ごしただけになってしまったのだ。
その代わりに…というわけではないが、岡本さんが自供したという内容を聞くことで事件の全てを終結させたいということが私と京介くんの共通の認識である。
これ以上、何者にも煩わされないように。
香月さんのお店に着くと、秘書兼マネージャーさんに先導されて社長室へと通された。
「悪いね、こっちまで来てもらって」
そう言って手を上げる香月さんに私たちは頭を下げる。
それから手招きされて隣の部屋へと誘導されると、いつものスーツ姿ではなくラフな格好の佐倉さんがいた。
「こんにちは」
「お疲れさまです」
障り当たりのない挨拶をして、京介くんと指し示された席へと座る。
香月さんはケータリングサービスを頼んでいたらしく、私たちの前には豪華な食事が並んでいた。
「晩飯、まだだろ? 食べながら話聞こうぜ」
頭の片隅で食事をしながら聞くような話ではないとは思いはしても、自分のお腹は正直なようで。
隣に座る京介くんには聞こえたらしく、静かに肩を震わせて笑っている。
朝食を摂ってからまともな食事を取れる時間もないほど忙しかったのは二人とも同じなのに、どうして私だけがと恨みがましく京介くんを見る。
対面にいる香月さんたちには運よく聞こえなかったらしく、私達のやり取りを見て、怪訝な顔をされてしまったけれど。
「せ…せっかくだからいただこうよ。 ね、海尋」
笑いを堪えながらそういう京介くんに香月さんも不思議顔だけれど、じゃあ…といって箸をつけ始めた。
出されたお料理はどれもびっくりするほどおいしくて、自分がその場にいる理由を忘れてしまうほどだった。
食事が終わりに近づく頃、不意に佐倉さんが口を開く。
「……岡本が自供した内容ですが」
瞬間、私たちの手が止まる。
聞きたいような聞きたくないような。
岡本さんの穏やかな雰囲気から想像できない内容を聞かされるのはわかっているだけに、耳が頭がその話を拒否しようとする。
だけどそんな私に構わずに話は続けられた。
「ご承知の通り、撮影現場での機材落下事故は岡本の指示により、彼の会社従業員が起こしたものでした。
その従業員は岡本に弱みを握られていたらしく」
「岡本さんが脅すなんてそんな卑怯なマネ…!」
「海尋…?」
「紫藤さん…?」
「あ…。
ご、ごめんなさい…。
……つ、続きをお願いします…」
私の反論に不思議に思うそぶりを見せたけれど、佐倉さんは続けた。
「機材を吊り下げるワイヤーに細工をした、と。 実行した者も岡本もそれは認めました。
動機ですが…、紫藤さんが中西さんに誑かされていると…それを助けたかったと言ってました」
それを聞いた瞬間、京介くんが深く溜め息をつく。
岡本さんは、私と付き合う前のあまり良くない評判をそのまま鵜呑みにして行動を起こしたということか。
どういう事情があろうとも、私を助けるために京介くんを亡き者にしようとしたことは許せることではない。
例えそれが私の熱狂的なファンが私のことを心配してのことだとしても。
だけど、実直で家族を思いやる彼が心からの悪人だとは思えず…。
「他の関係者にも聞き込みをしたのですが、岡本を悪し様に言うものはいなくて驚いているのが現状ですね。
まぁ、海尋さんへの思いが高じたといいますか…」
「そうだとしても、中西にとっちゃ最悪な事件のひとことだわな」
「そうですね。
あと、地下駐車場でブレーキが効かなくなった件ですが、これも岡本が実行したものだそうです」
「え…」
「防犯カメラの死角を突いて中西さんの車に近づき、ブレーキに細工した、と。
紫藤さんも乗る可能性を考えなかったのかと聞くと、もう自分で何をしているのかわからなくなっていたと…」
それは岡本さんの嘘かもしれないし、都合のいい言い訳かもしれない。
ただ、彼の取り巻く環境を考えたら、自分を失ってしまうことはありうることかもしれない…。
そして、私への脅迫状はカモフラージュのために出したそうだ。
もっとも、作成したのはマナミさんだったそうだけど。
道理で禍々しい雰囲気を醸していたわけだ。
たとえカモフラージュでも、私のファンだといった岡本さんが出せる雰囲気ではない。
「ちょっと待って。
海尋への脅迫状って…?」
「あ…」
そこで私への脅迫状の件を京介くんに話していなかったことを思い出す。
―――そういえば、ちょうど京介くんたちwaveのライブが決まって忙しくなる彼に心配掛けたくなくて黙っていたんだっけ…。
「オレのところだけじゃなく、海尋のところにも来てたってこと?」
京介くんの声が少し険しくなる。
これ以上隠す理由もなく、私は脅迫状が来た時期や彼に黙っていた理由を話した。
「は、初めは京介くんに心配掛けたくなくて黙っていたんだけど、スタジオの事故とかいろんなことが起きすぎて、それどころじゃなくなって正直忘れていたというか…。
でも、…黙っててごめんなさい…」
呆気にとられた京介くんは二度目の深い溜め息をついた…。
~ To be continmued ~