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Staticeの花言葉とともに with 中西京介88
~ダーリンは芸能人・妄想2次小説43~
私と京介くんは顔を見合わせたままで沈黙する。
再び鳴らされた呼び出しの音に玄関のオートロックを解除しようとするも、京介くんのその手は止まってしまった。
マナミさんが来た目的はなんなのか全くわからないからだろう。
私としても、京介くんを奪い返すと言い放った彼女をこの部屋に入れたくはない。
どうしたものかと考えているとき、私のケータイが"Eternal sunshine"のメロディを奏でた。
「一磨さん…?」
「一磨から?」
コクリと頷き、その電話に出てみる。
『あ、海尋ちゃん?』
「はい、どうしました?」
『あー、あの、さ…。 京介いる…?』
「え、京介くん? う、うん、居るけど…」
チラリと京介くんを見ると、少し怪訝な表情をして、彼は私のケータイを取り上げた。
そしてスピーカーホンにして一磨さんに話しかける。
「なんで海尋のケータイに…」
『お前もいたのか。 なら良かった。
いま下のエントランスにいるんだけどさ』
私と京介くんは思わず顔を見合わせた。
ということは、マナミさんの近くに一磨さんもいるというわけで。
彼女が起こした一連の騒動を知っているはずの一磨さんが、まさか彼女を受け入れようとしている…?
状況的にこれはどうすればいいのだろうなんて全くわからなくて、私と京介くんは困惑して顔を見合わせたままだった。
『……ここにいたとしても、京介は出てきませんよ。
何か話したいことがあるのなら、場所を変えましょう』
電話の向こうで、一磨さんがマナミさんに対してそう言うのが聞こえた。
彼女も何かを言っているけれど、それが何なのかわからない。
それから少しして、再び一磨さんが私達にこう告げた。
『えーっと、このままじゃ埒が明かないから、とりあえず彼女はうちの事務所に連れて行くよ』
「えっ?」
『チーフたちには話を通しておくから、二人も事務所へ』
それだけ言うと一磨さんは電話を切った。
そのあとはただただ呆然とするだけの私たちだったけれど、ふと我に返り、どちらからともなく出かける用意を始めた。
彼女が何の為にここへ来たのか何を言おうとしているのかわからなくて、私たちは戸惑いの中、無言のまま家を出た。
スタプロの事務所に着くと、私たちはすぐに会議室へと通された。
そこにいたのはマナミさんと一磨さん、waveチーフマネの飯田橋さんと幾度か見かけたことのあるwaveのサブマネージャーのひとりだ。
飯田橋さんの表情は非常に険しく、会議室全体が重い雰囲気に包まれている。
彼女の苛立ちは無理もないものだった。
自ら手塩にかけ、トップアイドルにまで押し上げた京介くんに降りかかった様々な厄災がマナミさんと直結していることを知ったのだから。
完全アウェーな状態で俯いたままのマナミさんを睨みつけるようにして見ている…。
「…とりあえず座りなさい」
飯田橋さんにそう言われ、入り口で足を止めたまま立ち尽くしていた私たちは会議机の空いている場所に座る。
そしてすぐに彼女は口をひらいた。
「京介のところに行って、あなたは何を言うつもりだったの?
あなたのこれまでの行動は謝罪だけで済むものではないということは理解してる?」
飯田橋さんのその言葉に一瞬だけ顔を上げるも、マナミさんは再び俯いた。
聞いている私のほうも胃が痛くなるようなかなり刺々しい声音だから、彼女が萎縮してしまうのも無理はない。
「ま、まぁ、飯田橋チーフ、そんなに威圧的にならなくても…」
「ムリ。 これでも抑えてるほうよ」
「確かにそうなんですが…」
場の雰囲気を和らげようと声を掛けたサブマネージャーさんだけど、それを飯田橋さんは一蹴する。
サブマネさんはなすすべなく口を噤んだ。
私はそっと京介くんの顔をうかがう。
「マナミ、あの週刊誌に書いてあったことは全部本当のことなの?」
いきなりの核心を突く京介くんに驚いたけれど、彼にとってはやはりマナミさんが消えた後の境遇が気になるのだろう。
無理矢理別れさせられただけでなく、犯罪に巻き込まれて、そして将来の道を閉ざされて消えたマナミさん。
そんな彼女を想い、『本気になれば誰かが傷つくんだ』と言って心から愛し合うことから目を背けていた京介くん。
二人を思うと心がざわついていく。
「…本当かどうかなんて関係ないでしょう? 今更じゃないの」
そう言った飯田橋さんをキッと睨み返して、マナミさんは叫ぶように声を上げた。
「いまさら? 全てあなたたちが原因の大元じゃないの!
京介と別れろってしつこく言ってきただけじゃなく、会社にも手を回したり…!
挙句にあんな……!!」
そこまで叫ぶとマナミさんは我が身を掻き抱くようにしたかと思うと震えだした。
自分に起きた過去を思い出しているのだろうか…。
「お気の毒だと思うけれど、じゃあ何故、あの男と組んだりしたの?
あなたにとって、憎んでも憎みきれない人間じゃなかったの?
それがどうして」
「……私だってそんなつもりはなかった。 だけど…」
それだけ言ってマナミさんは口を噤んだ。
以降は何を聞いても沈黙を続けるだけ。
彼女が私たちに会いに来た理由もわからないままだ。
長く続く沈黙で話が進まない状態の中、私のケータイが着信を告げる。
その画面を見ると、佐倉刑事の名前が表示されていた。
「…佐倉さんから?」
「え?」
「ちょっと出てくるね」
「うん」
その場にいる人たちに頭を下げて、私は電話に出るために会議室を出た―――。
~ to be continued ~