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Staticeの花言葉とともに with 中西京介81
~ダーリンは芸能人・妄想2次小説43~
―――翌朝。
小鳥たちのさえずりが聞こえる前の黎明の時間。
私は隣でまだ眠る京介くんにそっとキスをして、ベッドから降り、バスルームに向かった。
今日のお仕事は別々の場所で家から出る時間にも差があり、私の方がずっと早く出ることになっていた。
かんたんに昨夜の汗を流し、二人分の朝食を作った後、自分の分だけを食べて身支度をする。
山田さんが迎えに来てくれる時間が来たころ、京介くんは起きてきた。
「おはよ…」
「おはよう京介くん。 でもまだ早くない?」
「んー、そうなんだけど…ちょっと確認。
海尋の今日の予定は?」
「早朝ロケ終わってからT局回って夕方まで撮影、夜はタカ先生とこでレッスンだよ」
「そっか。 じゃあレッスン終わるころに迎えに行くから待ってて?」
「それは嬉しいけど、22時過ぎるかもだよ?」
「……昨夜言ったけど、7時にマナミと会う」
「!」
「今日中にキッチリとカタつけて迎えに行くよ。
んで、晩ご飯は『シーブリーズ』で食事しよ?」
穏やかに優しくそう言う京介くんは、側に来て”ちゅ”と額にキスを落とす。
本当にもう迷いはないようだけれど。
でも、一度は京介くんの前から姿を消したにもかかわらず、繋がりを伝ってここまで追ってきたマナミさんがそう簡単に諦めるとは私には思えなかった。
自ら過去とwaveの事務所に受けた仕打ちを週刊誌に売り、世間の同情を集めてまで京介くんに再び近づいた彼女が。
わずかな話し合いで決着がつくとはどうしても思えない。
「海尋? どうかした?」
「えっ? あ、ああ、何でもないんだ。 ちょっとボーっとしてて。
あ、山田さんが迎えに来る時間だから。 いってきます!」
「うん、気をつけて」
微笑んで手を振る京介くんに微笑み返して、私は急いで地下駐車場へと向かった。
(本当にマナミさんが諦めてくれればいいのだけれど…)
そんな風にわずかな期待をするが、自分自身だったらと思うと…やはり京介くんを諦めるのは困難だろう。
時薬が心の傷を癒すとは言うけれど、京介くんが居なくなった世界で生きていく自信はない。
それはたぶん、彼女と同じではないだろうか。
しかし、同時に。
今回のことで京介くんの心の傷を拡げてしまった彼女に嫌悪感を抱く。
自分が受けた傷を京介くんにも負わせようとしているようにしか思えなくて。
そして―――。
急速にいろんな真実が露呈したことで大きな何かが動き出した気がする。
いくつかの点と点が一つの線になったのだけれど、それでもまだ完全に繋がっていないような気がしてならない。
京介くんが大怪我をしたあの事件も私に脅迫状が送られてきた事件も、全く解決はしていなくて、だけどそれすらもどこかで繋がっているような―――。
「…―――、おい、海尋!!」
「はっ…」
突然大きな声で呼ばれるとともに肩を揺すぶられ、いま自分がいる状態を認識する。
早朝ロケは既に終わり、撮影スタッフたちは撤収の準備をしていた。
どうやらいろいろなことを考えているうちに、無意識で自分の役割をこなしていたようだ。
「まったく…」
「すみません…」
「誰にも気付かれていないみたいだからいいものの、仕事中に考え事なんてしてるんじゃない。
怪我でもしたらどうする」
「はい…」
山田さんのお小言の最中にも、今日の京介くんたちの話し合いのことばかりを考えてしまう。
出来ればその場にいたい。
どんな風に話し合われるのか、気になって仕方がない。
でもちょうどその時間は他局での仕事中で抜け出すことは難しいし…。
ぽん、と頭に手を乗せられて、再び落ちていた思考が現実に戻る。
「どこか具合が悪いのか?」
「あ、いえ…体調は何とも…」
「……そんなに気がそぞろになるようなことがあったのか?」
「あの…」
「何かあったときフォローのしようがない、どんなに些細なことでもいいから話してくれないか」
山田さんが私を心の底から心配してくれてるのがわかる。
何かあった時にすぐに力になってもらえるのは非常にありがたいことなのだけれど。
これ以上、彼には負担は掛けられないという思いもあって…。
「遠慮してるようだが、気にするな。 お前たちが仕事しやすい環境を整えるのもオレの仕事の一つなんだからな」
「…はい…。 あの…、今晩…京介くんがマナミさんに話をつけてくるって言ってて……」
「ああ、それが気になってるのか」
「すみません……」
「そうか」
そう短く言って山田さんは連絡用の電話を取り出し、どこかへ電話をし始めた。
「…ああ、ラビットの山田です。 お世話になってます。
大変申し訳ないのですが、今日の海尋のレッスン、お休みさせていただきたいのですが。
…いえ、体調不良というわけでなく、本当にこちらの都合で……、はい、はい、…いえ、別の日に振り替えていただきたくて。
…あ、ありがとうございます。 また改めてご連絡します」
どうやら電話の相手はダンスの先生だったようだ。
通話を終えた山田さんがこちらを振り向き、言った。
「収録はどうしても外せないが、上手くいけば時間には間に合うだろう。
気がそぞろな状態でレッスンを受けても怪我しかねないからな、レッスンは別の日に振り替えてもらった」
「え…、あ、ありがとうございます…!」
「間に合うかどうかは、お前の力次第だ。
収録はしっかりとこなせ」
「はい!」
そうして私は次の現場であるT局へ向かい、少し気に掛りつつも思考を持っていかれることもなく仕事に専念することが出来たのだった。
~ To be continued ~