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Staticeの花言葉とともに with 中西京介78
~ダーリンは芸能人・妄想2次小説43~
ちがやさんからの謝罪の言葉があってから数分間、その部屋には沈黙が落ちていた。
いや、厳密にいえば、壁に掛けられた時計の秒針の音と外からの雑音は聞こえていたのだけど。
業を煮やした山田さんが何かを言おうとした時、佐伯さんが私に向かって口を開いた。
「海尋さん、怪我の方は大丈夫なの?」
「え? 怪我、って…」
「この前、地下駐車場で危ない目に遭ったでしょう?」
何故そのことを佐伯さんが知っているのだろうと思ったけれど、そう言えばあの日ちがやさんたちもあの局にいたんだっけ…。
警察を呼んだために局の中でも騒動になっていたのだろう。
「ご心配をおかけしたみたいで…でも大丈夫です。 打ち身と擦り傷で済みました」
「そう、よかったわ」
佐伯さんはにっこりと笑うけれど、その後はその会話も長く続かなくて再び沈黙が落ちる。
なかなか本題に入ろうとしないちがやさんに、山田さんもさすがに苛立ちを露わにした。
「こちらも時間があまりないんです。 そろそろ本題に入っていただきたいのですが」
「あ…、そうですよね…、すみません……」
そう言葉を継ぐちがやさんだったけれど、次の言葉はやはり出てこなくて俯いてしまった。
すると佐伯さんがため息をついて、私たちの方に顔を向けて真剣な表情で話し始めた。
「何から話せばいいのか、ちがやも混乱してるのよ。 ごめんなさいね。
―――そうね、とりあえず三十数年前の話をしましょうか。
今回のことに繋がっていることだから…」
三十数年前と言えば、佐伯さんが生まれた子どもをその父親の実家に預けて芸能界に復帰した時期だ。
復帰したのはいいものの生き残るのに必死で、また、所属していた事務所と当時のマネージャーはありとあらゆる嘘をついて佐伯さんから子どもを遠ざけてたが故に会うことは出来なかったという。
「数年前、成人した子どもにたまたま会えたけれど、彼が私を恨んでることを知った時は愕然としたわ。
そして、その理由と原因も…ね」
子どもが母親宛てに書いた手紙は全て元マネージャーが握りつぶしたために彼女の元には届かず、いくら待てども返事を貰えなかったその子どもはついには母親を恨むようになった…。
私はこっそりと山田さんを見たけれど、その表情は普段と何も変わらない。
その問題は既に彼の中では解決していることであるからなのか。
それともマスコミの前では「もう恨んではいない」と言ったとはいえ未だ気持ちの整理がつかないままなのか。
ただ、佐伯さんは唯一持っていた乳児のころの我が子の写真を肌身離さず持っていたというし、山田さんも母親に抱かれた写真を部屋に飾っているという点から考えると、お互いにお互いを思い合っていることは確かなのだけれど。
「そして、ほぼ同じ時期に…北見川さんも子どもを産んでたの」
「「!?」」
佐伯さんと同じ時期に出産したということは、山田さんとほぼ同い年の子どもが北見川さんにいるということだ。
ちがやさんは私と年齢が近いからその子どもは彼女ではないのは確かであり、ということは、彼女には兄姉がいることになる。
先日ちがやさんに会ったときに言っていた『兄』という人がそうであるのか。
「ただ、その『お兄さん』って人の存在をちがやが知ったのはほんの数年前。
『彼』は3歳くらいの時に施設の前に捨てられて、小学生のころに子どものいない夫婦の養子になったのだそうよ」
「え…捨てられた、って……」
「養護施設の玄関のところにね、置き去りにされたそうなの。 当時の施設長と『彼』自身がそう言ってるから間違いはないわ」
「てことは、佐伯さん、ちがやさんの『お兄さん』って人と会ったんですか?!」
「ええ。 ちがやの事務所移籍に関して、ね。 しかも、1度目は北見川さんも同席だったのよ」
「!」
ちがやさんの『お兄さん』が自分の出資する芸能事務所に異父妹を引き抜こうとするのは心情的にわかるのだけれど。
自分を捨てた母親がそのことに関与することを許したということは私には理解できない。
山田さんたちのように第三者の悪意によるすれ違いならまだしも、明確な意思を持って自分を捨てた人となど…。
「ちがやは何度も断っているのだけれど、北見川さんがしつこくてね。
もっとも、あれだけ事を大きくしたのだからあの事務所への仕事は当分ないでしょうし、いま移るのは得策じゃないわね」
「損得じゃなくて、私は」
「わかってるわ。 とにかく今は関わりたくないんでしょう?」
「…はい……」
「―――さて、私からのお話はおしまい。
ちがや、今日ここまで来てもらった海尋さんたちに話すべきことを話しなさい」
「…」
「ちがやさん…?」
「……あなたが話せないのなら私から話をするけど」
ちがやさんは逡巡した後、スッと顔を上げた。
青白いのは変わらないけれどその表情は真剣なもので…。
「…―――いいえ、話します。 佐伯さん、ありがとうございます…。
海尋さんのその怪我ね、犯人がわかったの」
「えっ…?」
私と山田さんは思わず顔を見合わせた。
ちがやさんはあの場所にいなかったはずだ。
それなのに何故…?
おそらく山田さんも同じことを思っているだろう。
「それから、いままであったことも全てお話します―――」
ちがやさんは静かに続けた。
~ to be continued ~