創作◆櫻守by中西京介~『蒼い空、遠いかなた』彼目線~④★ダーリンは芸能人・妄想2次小説短編40 | 二次元のカレに逃避中♪

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主に、SNSアプリの乙女ゲームについてのレポ、および携帯恋愛ゲーム《ダーリンは芸能人》(LoveDuetを除く)をベースとした妄想2次小説を書いてます。※PC推奨です
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当、創作妄想2次小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。

《ダー芸LD》は、京介くんのキャラ設定がこれまでの彼と違いすぎるということを聞いたので手を出してません。

そのため、《ダー芸LD》しか知らない方は恐らく当創作に出てくる京介くんとイメージが合わないかもしれないことをご了承の上、お読みください。






      櫻守 by 中西京介④


  ~『蒼い空、遠いかなた』 彼目線 ~


            ★


 《ダーリンは芸能人》妄想2次小説短編vol.41









収録が終わり、オレは控え室に戻ろうとしていた海尋とかなたさんを廊下で呼びとめた。

そして、再び遠方ロケが入ったために、もう少しの間、実家に泊るようにと彼女に言う。


「えっ…、いいの?」


そう返した海尋の顔が嬉しそうで少しムッときたが、なんとか平常心を保つ。


「じゃ、帰るころに連絡するから」


足早にその場を離れ、自分の控え室に戻る。

本当は、彼女が他の男と仲睦まじくしている姿は想像するだけでも苦しい。

けれど、いまはそうしないときっと後で悔いると思ったがゆえの行動だ。

だけど―――その翌日の昼間、かなたさんからオレに直接電話が入る。

明日の夕方、船で現在滞在中の国へ戻ると言うのだ。


「海尋の話だと、あと3~4日くらいこっちにいるって…」

『……うん…その予定だったんだけどね…』


かなたさんが言いにくそうにしながら、戻るのを早めた理由を言った。

もう、体がかなり辛いらしい。

当然、海尋の前で倒れるわけにはいかず、その上、飛行機の加速度荷重が耐えられるかどうかわからないために船で戻ることにしたのだと。


「……海尋が…悲しみますね…」

『そうだね…。

 だから中西くん、早めに海尋ちゃんのところに帰ってあげてくれないかな』

「え?」

『ありがとう、ボクのために海尋ちゃんと過ごす時間を作ってくれたんだよね…』

「!」


局の廊下でほんの少し言葉を交わしただけなのに、かなたさんは気付いていたのか。

遠方ロケの仕事が急に入ったというのは嘘なのだと。

命を賭してまで海尋に会いに来たかなたさんに、残された僅かな時間を彼女と過ごして欲しいと思ったからこそ吐いた嘘だったのだが……。


『キミの気持ち、本当に嬉しかったよ……。

 いつかボクが死んだことを知っても、キミが海尋ちゃんの側にいてくれれば、きっと彼女は悲しい思いをしなくてすむね。

 その上でのお願いなんだけど……キミは何も知らなかったことにして欲しいんだ』

「……」

『死んでもなお、彼女の心の中に住み続けるのはボクの本意じゃないし、キミも不本意だろう?

 完全に忘れ去られるのは悲しいけど、ボクのことはふと思い出すだけの存在でいいから……』

「でもいつかは知られてしまうと思いますが……」

『うん…でもさ、その頃にはキミの存在が海尋ちゃんのの中でより大きくなって、少しは悲しみが軽くなるだろう…。

 あまり早くに知ると……彼女はこれから先ボクを思い出すたびに、どうして引き止めなかったのかと後悔して苦しむと思うんだ…。

 生まれた時からずっと傍にいて見守ってきたから…それが手に取るようにわかる……』


彼もまた、海尋を理解している人間の一人だった。

海尋が彼の死を知るのははるか先のほうが良いのはオレも同じ意見だ。

いや、出来ればその死を永久に知られることなく、彼が異国の地で幸せに暮らしていると信じていてほしい。

それから彼は少しの沈黙の後、続けた。


『中西くん……これだけは守って欲しい……彼女の笑顔を守り続けて……』

「かなた、さん……」

『海尋ちゃんには…誰よりも幸せになってほしいんだ……小さな時からずっと守ってきた、ボクの大切な……妹だから』


受話器を通じても伝わってくる海尋への愛情。

近くに居なくてもずっと気にかけていて……。

目の前にいるわけじゃないのに、その深い思いが感じとれるようだ。


「大丈夫です。 オレはずっと海尋を守りますから」


きっぱりとそう言うと、かなたさんはホッとしたように息を吐き、最後に「ありがとう」とだけ言って電話を切った。

もちろん彼に言われるまでもない。

彼女のあの笑顔を守る役目は誰にも譲れない。

海尋を他の誰よりも大切に思っていると自負しているのだから。





そうして―――あの日から幾年月が流れ、今年もまた桜の季節がやってきた。

かなたさんが蒼い空の向こうへ行ってしまってから、何度目かの桜の季節。

やがて狂おしく咲いた桜は花の盛りを過ぎて葉桜へと変わっていく。

そして、彼女はまた呟く。


「かなたお兄ちゃん、どうしてるのかなぁ」


二人で暮らすマンション近くにある大きな桜の木を見上げながら。


「幸せに暮らしてるよ、きっと。 オレたちみたいに」


オレがそう言うと、海尋は嬉しそうに「きっとそうだね」という―――腕の中に、愛しい小さな命たちを抱いて。

―――蒼い空の下、初夏の風が新緑の桜の葉を揺らし、揺れる葉は葉擦れの音をかすかに鳴らす。

それはまるで、かなたさんが「いつまでも見守っているよ」と言ってるみたいに聞こえた。

そうしてオレは、この1年もかなたさんとの約束を守れたことに安堵し、これからのこの1年もまたあの約束を守ることを誓う。

真実を知ったとき、彼女に悲しみの涙をひとしずくたりとも流させないために。



~ end ~