《 for PC 》
ついこの前にうpした分のPC閲覧用です。内容は同じです。
ご注意
当、創作妄想2次小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
★なんというか……全部中途半端でごめんなさい。。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
★この妄想シナリオ(小説)は、GREEの京介ガチャコンプを諦めたときに思いついたものです。
★「」の部分は神戸弁ではなく、大阪弁です。
いわゆる『関西弁』と言われる言葉は、どこの地方にもあるように、地域によってビミョーに違います。
ひだかは大阪生まれの大阪育ちなので、神戸弁・京都弁ともにちょびっとしか使えないため、当該地域の方々には若干違和感があるかと思いますが、その辺はご勘弁くださいマセm(_ _ )m
★甲子園球場での野外コンサート開始前の表現は、過去にTUBEのコンサートに行ってた時の記憶を掘り起こしたものです。
だから今は雰囲気が違うかもー。
★掲載した写真は全て 《フリー写真素材 足成》 からダウンロードさせていただいたものです。
摩耶山からの夜景は格別で、実物はまさに【1000万ドルの夜景】でした(行ったのは阪神淡路大震災以前でしたが)
3年目の……? in Kobe with 中西京介 for PC
★
《 ダーリンは芸能人 》 創作・妄想2次小説短編vol.21
お互いの想いが繋がり、結婚して3年目を迎えた夏―――。私と京介くんは相変わらず忙しい毎日を送っていた。一緒に暮らしていても、なかなか顔を合わせることが出来なくて。それでも、私たちは、いや、少なくとも私は幸せを感じていた。
そんな折、今年もWaveの全国ツアーが始まり、さらに顔を合わせる時間が少なくなっていた。追いかけていきたいものの、私自身にもそれなりに仕事があるからそれは出来ない。私たちの仕事は『人気商売』だから、仕事があるのはとてもありがたいことなのだけれど、こうやって愛する人と一緒にいる時間が少なすぎるとほんの少しだけ恨みがましくなる。
もっとも、これもトップアイドルとの結婚に付き物なのだろうけど。
リビングに置いてある、お互いのスケジュール表を貼ったメッセージ・ボードに目をやると、京介くんは4日前からから5日間は神戸・大阪滞在になっていて、明日帰ってくることになっている。
「神戸かぁ……行ってみたいなぁ」
神戸といえば……異人館通りに南京街、ポートタワーに明石海峡大橋。横浜にとっても似た感じの町らしいんだけど、唯一、横浜をしのぐものがあるらしい。それは……山から見る夜景!!日本三大夜景の一つで、『1000万ドルの夜景』とも言われているのだ。
「あっ、いけないっ」
ぼんやりと考え事をしながら時計を見ると家を出る予定の時間を5分も過ぎている。私は慌てて、山田さんが下に迎えに来ているのか確認の連絡をした。すると……。
「ああ、海尋か。 連絡が遅くなってすまない、昼からの打ち合わせが急きょ中止になってしまった」
「えっ?」
「30分ほど前に変更の電話が入ってな。 いろいろと確認しているうちに遅くなってしまった。 すまない。
ところで、まだ家か?」
「あ、はい」
「じゃ、本当に悪いが……突然だが今日は今からオフだ」
「……わかりました」
降ってわいたような、突然のオフ。しかも、明日は京介くんのスケジュールに合わせてのもともとのオフの日で。もしかしたらの神戸行きを期待して、彼に電話をする。京介くんはワン・コールで出た。
『……海尋? どうしたの?』
「あ、あのね、急にオフになったの」
『……え、そうなの…? それで……?』
「私もそっちに行こうかと……」
喜んでくれるのかと思ったら、少し戸惑ったような、焦ったような声だった。
(あれ? 来てほしくないのかな…?)
そう思って彼の次の言葉を待っていると、何やら電話の後ろが騒がしい。
「京介くん、いまどこにいるの…?」
『えっと……駅』
(駅? またずいぶんと大雑把な……)
それでも、年に1~2度しか訪れないような地域だから仕方ないと思い、さっきの話を続ける。
「あのね、私、そっちに行こうかなって思ってるんだけど」
『……無理して来なくてもいいよ。 どうせ明日は帰るんだし』
「え……でも」
『それに……今から来ても、今晩はコンサートだからほとんど会えないと思うよ?』
……何だか変だ。いつもなら私が行くと言えば喜んでるのに。
「京介くん……?」
『あ、ごめん、……夜、コンサートが終わったら電話するね?』
彼はそう言って早々と電話を切ってしまった。ますますおかしい。普段ならこんなとき、「オフになったんなら、こっちにおいで? コンサートが終わったら、デートしよ?」って言ってくれるのに。
何だか胸騒ぎがした私はいてもたってもいられなくて、2時間後には博多方面行きの新幹線に乗っていた。
だけど、新幹線に飛び乗った3時間後―――突然、私は迷子になってしまった。
「えーっと……ここは、どこ?」
連日の長丁場の撮影で寝不足気味だった私は、降りるはずの新神戸を寝過ごしてしまった。新神戸の次に停まった駅で慌てて降りたのはいいものの……私は途方に暮れている。西明石駅。全く知らない土地。
「悩んでても仕方ない……戻らないと」
と、ため息をつく。それからたまたま通りがかった人に甲子園球場へ行きたいことを告げると、
「一番簡単なんは、三宮に出て阪神に乗り換えるこっちゃな。
梅田行きに乗ったら嫌でも甲子園球場が目の前にある駅に着くゎ。特急も停まるで。
阪急ちゃうで、阪神やからな。 間違うたらアカンで。
阪急乗ったら甲子園球場までちょお歩かなアカンからな」
とマシンガントークの如く、一気に話すように教えてくれた。間違えやすいことまで親切に。頭を下げてお礼を言い、私はそのまま在来線へ向かう。
ほんの少し待っただけでホームに入ってきた電車に乗り、大阪方面に向かっていた。
「…わ………」
電車の車窓から見えた景色に感嘆の声が漏れる。西明石駅を出て少ししてから海に面した区間に出ると、進行方向に明石海峡大橋が見える。それから、右手には淡いオレンジ色の太陽と正面には陸らしきもの。
(新幹線で新神戸に戻って三宮に…って手もあったみたいだけど、時間は変わんないみたいだしこっちでよかったかも)
海岸ふちを走ってるわけではないので、ところどころ建物に邪魔されるけれど、それでも、初めて見る景色に私は心躍っていて。私は当初来た目的を忘れ、しばらく車窓の外の景色を眺めていた。
……そして、しばらくして電車は三宮駅に到着する。
「えっと……あれ? 阪…神だっけ? 阪急だっけ?」
三宮駅の改札を出て、左に行けば阪急電鉄、右に行けば阪神電車と書かれている。西明石駅で教えてもらったとき、間違っちゃダメだって言われてたけど……。道行く人に聞こうにも、みんな早足で。私は途方に暮れてしまう。
そのとき、すれ違いざまに聞こえた会話。
「あ、さっきの、海尋に似てへんかった?」
「うわー、コンサートの今日はその名前出さんといてぇな。 ウチ、芸能人の中でいっちゃん嫌いやねん!」
「あんた、Waveの京介、むっちゃ好きやってんもんなぁ」
「アホ! 過去形ちゃうわ、現在進行形や!」
……Waveの、特に京介くんのファンの子らしい。
あまりもの勢いで話しているので、このままここに立ち止まらないほうがいいと思い、とりあえず【阪神】と書かれた方に向かった。
地下に降りて表示に従いながら人の波に乗って歩いていくと、【阪神電車 三宮駅】の表示とともに、切符売り場があった。運賃経路表を見ていくと……あった。運よく。【甲子園】の文字。切符を買って、改札に入る。
『梅田行きに乗ったら嫌でも甲子園球場が目の前にある駅に着くゎ。特急も停まるで』
西明石の駅で教えてくれた言葉を頭の中で反芻する。
でも、そのときにふと気付いた。特急ホームにはWaveのコンサートに行くと思われる人が多いコトに。
(……ココで私のコトがバレるとどうなるんだろう……)
二人の仲を公表したとき、京介くんがしっかりとファンに伝えてくれたおかげで割と好意的な反応だった。だけどやっぱり、ほんの一部だけど、攻撃的なファンもいたのは確か。
私は特急のりばから離れて、普通のりばの方に向かった。コンサートに行くらしき人たちはほとんどが特急に乗るようだったので、少し時間はかかるだろうけど、普通で向かうことにしたのだ。普通電車はやっぱり人が少なくて、余裕で席に座れた。
ふと、車内の会話に耳を傾けていると、普段あまり聞かない、関西の言葉が耳に入ってくる。
(……宇治抹茶さんがいっぱい)
と、思わずクスクスと笑ってしまった。でも、隣の人の視線を感じ、思わず身をすくめてうつむく。
(こんなことでバレちゃダメだよね)
私は下を向いて、寝たふりをすることにした。
……どうやら、本当に居眠りをしていたようで。気がつくと、甲子園駅に着いていた。慌てて電車の扉が閉まる寸前に降りる。
そんな私の目に入った風景。
「うわ……」
それは、駅から甲子園球場に向かって歩いていく人々の列。
「……あれ、みんなコンサートに行く人…?」
今までも彼らのコンサートに行ったことがないわけではない。でも、普段は会場まで行くのは車であるうえに関係者入口にすぐに横づけされていたため、一般の人と混じって電車に乗って…なんてことは初めてだったから、人の多さになおさら驚嘆の声を上げる。
そんな中、Waveの野外コンサートのための混雑に注意するようにというアナウンスが入る。みんな、これからのコンサートに向けてヒートアップしているようで、誰も私だとは気付かないことに安心するが、私は念のためにうつむき加減で端の方を歩いて改札に向かった。
改札を出て球場に向かって歩いていると、ファンの子たちが声援の練習をしているのが見えた。みんなそれぞれのファンに分かれて、グループになっている。
そんなファンたちを横目に球場の関係者入口を探す。
(あった)
だけど、今日は来る予定ではなかったから関係者パスは持っていなくて。仕方なく、入口付近に立ちつくしていた。でもやっぱり、入口の警備員さんたちに警戒されているのがわかる。
(京介くんに電話して……)
そう思ったとき、球場の中からリハーサルをしていると思われる音楽が流れてきた。この様子では、彼は携帯電話など持ってるはずもないと思い、コンサートが終わるまでどこかで時間をつぶすことにしたのだった―――。
甲子園球場近くのショッピングパークで時間をつぶし始めて数時間が経った。
コンサートはもうとっくに終わっているようだけど、京介くんからの電話はまだない。
(コンサートが終わったら電話してくれるって言ってたのに……)
そう思ってバッグに入れていた携帯電話を取り出してみると…………。
(………うそっ…?! 今朝、フル充電したのに……!)
電池が切れていたのだ。
私は慌てて予備の電池パックを入れ替えて電源を入れた。
すると―――数十件もの電話着信とメール着信があったことが表示される。
全部、京介くんから。
あ、山田さんからも1件。
(う、うわ、どうしよう……と、とりあえず京介くんに連絡しなきゃ……。
い、いや、仕事のことだったらマズイから山田さんに先に……)
プチパニックになりながらそう思ったとき。
手の中の携帯電話が、京介くん作詞の『Secret Summer』を鳴り響かせる。
(わっ……)
アワアワと携帯を落としそうになりながらも、何とか持ち直して発信元を確認する。
ディスプレイには『京介くん』の表示。
「も……」
『海尋っ?! いまドコにいんだよっっ!!!』
通話ボタンを押すと同時に聞こえてきた京介くんの怒鳴り声。
焦ったような、でも、安心したような声色で。
ものすごく心配していたことが分かるほどだった。
「あ、あの……甲子園球場近くの……ショッピングセンター………」
『―――はぁっ???
……ったく、なんでそんなトコにいるの?
メンバーの誰かに迎えに行かせるから、そっから動いちゃダメだよ?!』
それだけ言って通話は切れてしまった。
言われたとおりに待っていると、また電話の着信音。
今度は『亮太くん』の表示。
「は、はい」
『海尋ちゃん? いま何階??』
「えーっと…5階……」
『了解。 このまま切らないで?
………あ、いたいた』
そんな言葉のあと通話が切れて、後ろから不意に抱きつかれた。
「海尋ちゃん、みーっけ」
「きゃっ…… り、亮太くんっ?!」
「しーっ。 ……行くよ? 京介もじきに戻ってくるから」
そう言って変装した亮太くんは私の手首を掴んで歩き出したのだった。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
亮太くんに連れられてきたのは、甲子園球場の控室。
「海尋ちゃん、いたよー」
「よかったー」
「こっちにいつ来たの? 無事に会えてよかったよ」
みんなが口々に私の無事を喜んでくれ、翔くんが椅子をすすめてくれる。
「ほら、ココに座って?」
「う…うん……。 みんな、ごめんね、心配掛けて」
「いやー、オレらはいいけどさー」
部屋を見渡すと京介くんがいない。
ってことは、外に探しに行ってる……ってこと?
そんなことを考えていると、一磨さんが神妙な面持ちで話す。
「海尋ちゃん」
「はい……」
「京介、海尋ちゃんと連絡取れないって真っ青になって、ものすごく心配してたんだよ?」
「……」
私は何も言えなくなってうつむく。
「反省会が終わった直後の京介、すごかったもんなー」
「元タラシの名が泣いてるよー」
亮太くんと翔くんがケラケラ笑いながら言う。
それを窘めるように注意してから、一磨さんは付け足した。
「あとでいたわってやって?」
「はい……」
鼻の奥がツンとして、涙がじわ…と浮かんできた。
あのとき、電話で話が出来なくても、メールであの場所にいるコトを伝えておけばよかったと後悔した。
そして……しばらくして、控室のドアがものすごい勢いで開く。
「海尋っ!!」
京介くんだった。
相当走ってきたのか、肩で息をしている。
「旦那さんのご到着ぅ」
亮太くんがからかうように笑いながら言う。
「携帯に電話しても…繋がらないから…、家に電話したんだけど……出ねーし…
山田さんに連絡したら…海尋が、こっちに…来てるって……」
肩で息をしながら話す京介くん。
その様子にどれだけ走っていたか分かる。
「ご、ごめんなさっ…」
涙がぽろぽろとこぼれてそれ以上言えなかった。
泣きじゃくる私を落ち着かせるように、京介くんはギュッと抱きしめて、背中をトントンと叩く。
そして大きく息を吐き出して、私の頭を撫でながら言った。
「……もういいよ…。 無事だったんだから」
メンバーの面々の前だということをすっかり忘れていたとき、亮太くんが再びからかうように言った。
「海尋ちゃん、みんな明日帰るって言ってんのに、どうしてこっちに来たの? 京介に会いたかったから?」
「あ……えと……」
「亮太、からかうな」
「だって新婚ならともかくねー」
一磨さんにたしなめられながらもニヤニヤしながら問いかける亮太くんに、私は正直に話す。
「今日の午後、急にオフになったの…。 それで、京介くんと一緒に神戸の夜景を見に行きたくなって電話したんだけど、来るな的なコト言われて……何だか心配になって……」
「それって、京介がもしかして浮気してんじゃないかって思ったってコト??」
「亮太」
「う……浮気…っていうか、……何だかいつもと違うなって…」
うつむきながら話す私の頭を京介くんがくしゃくしゃっと撫でる。
「……無理して来なくていいって言ったのは、海尋、ここんとこずっと体調悪かったでしょ?
風邪か何か分かんないけど、微熱が続いて体ダルそうだし、食欲も落ちてるみたいだし、吐き気が治まらないって言うし。
だから、オフの日くらい体休めないとって思ったからなんだけど」
「うん……ごめんなさい……」
……そっか…ちょっとしか会えない時間の中ででも私のコト、見ててくれたんだ……。
そう思うと、心の中に嬉しさが広がって、また涙が出てきそうになった。
そのとき、亮太くんが不思議そうに聞いてきた。
「海尋ちゃんってば、いつも体温計ってんの?」
「ううん。 体が熱い時は計るけど」
「あれ? 京介、よく海尋ちゃん微熱続いてるってわかったね?」
「……毎晩抱いてんだから、それくらいわかるっつーの」
「!!! き…京介くんっっ!!!」
「うわー、言ってくれちゃったよ…」
「お前が聞いたんだろが」
亮太くんの言葉に言葉で応酬する京介くん。
そのとき、成り行きを見守るように私たちの会話を静かに聞いていた一磨さんが、不思議そうに言った。
「……ちょっと待て、京介。 それから海尋ちゃんも。
それだけの考える材料があって、体調不良の理由、分かんないのか?」
「……え?」
私は反対に一磨さんの言いたいことがわからないでいた。
京介くんも同じようで、首をかしげる私たちに亮太くんがまたニヤニヤしながら言う。
「一度、病院で診てもらったほうがいーよ」
病院へ行けって……私、そんなに悪いのかな……と思っていると、
「……思いあたるふし、ありすぎなはずだけど?」
と穏やかに微笑みながら言う一磨さん。
「え? えーっと……。 …………あ、あれ?」
忙しさにかまけて気付かなかったけれど、そういえばこの1,2ヶ月、……ない。
続く微熱、治まらない吐き気、止まってしまっている『月の障り』……頭の中で反芻すると、ある一つの原因に辿りつく。
その瞬間、全身が熱くなって、自分の顔が真っ赤になったのが分かる。
まさか、未婚の男性に指摘されるまで気付かないなんて……。
しかも、メンバーに。
「分かったみたいだね?」
「っていうか、気付かないほうがどうかしてる……」
と呆れたように言うのは義人くん。
真っ赤になってうつむきながらも京介くんの顔をそっと窺い見た。
でも彼は未だに分からないって顔をしてて。
「え…な、なんだよ……?」
その次の瞬間、翔くんが「あーっ」と大声を出してニヤニヤし始めた。
「ニブい翔でさえ気付いちゃったよー?」
「ニブいは余計だろ?!」
と、じゃれあいながらニヤニヤする亮太くんと翔くん。
笑いをかみ殺している一磨さん。
呆れたような視線を送る義人くん。
それから、真っ赤になって小さくなってる私。
全員を見渡して、京介くんはようやく気付いたようで。
彼は……耳まで真っ赤にして片方の手のひらで口を覆った。
「え……ちょ、マジ……?」
「こんなこと、嘘言ったってしかたないだろー? ま、病院に行ってみないと確定しないだろーけど?」
「み…海尋……?」
「あ…えと……たぶん、そう、かも……」
おそらくこれ以上ないくらいの赤面で小さくなりながら、私は彼らの言葉を肯定した。
でも、私のその言葉に、信じられないといった感じの、複雑な表情をする京介くんに少し不安になる。
(え……もしかしてイヤとか……まさか、ダメなんて言わないよね……?)
私のその表情を読み取ってか、一磨さんが、
「ま、とりあえず今の段階じゃ確定しないからその結果は後日聞かせてもらうとして、反省会も終わったことだし戻ろうか」
と、京介くんの肩を叩いた。
京介くんはまだ複雑な表情をしている。
でも……。
私はお義姉さんのところに一緒にお邪魔した時のコトを思い出していた。
(前に言ってたよね、私が広海ちゃんと遊んでるとき、私との子どもならもっと可愛いのかもしれないって思った、って)
あまりもの突然の話で、しかも、こんな場所での判明だったから、たぶん、戸惑ってるだけ。
少しずつ顔がほころんでくる彼を見て、私はそう確信する。
そのあと、みんなが帰る準備を始めると、「はいはーい」と翔くんが手を挙げる。
「なんだ?翔」
「神戸も最終日だからさー、夜景見に行こうよ、夜景! 一見の価値はあるってよー」
夜景。
そういえば、夜景を見るコトも、私が神戸に来たかった理由の一つだった。
だから反射的に、「あ、私も行きたい」と手を上げた。
が、その瞬間、京介くんにじろりと睨まれる。
「体、冷えたらどうすんの?」
「う……」
思わず肩をすくませる。
「夏だから大丈夫だろー? ってか、今からそんな心配してどーすんだよ」
と、ケラケラ笑いながら助け船を出してくれたのは翔くん。
でも、そんな翔くんを諌めるように、義人くんは表情を変えないで言う。
「妊娠初期って、気をつけすぎるくらいでいいんだよ。 油断大敵。
ま、何か羽織るモノでも持っていればいいんじゃないかとは思うけど」
それから、義人くんの言葉を受けて、一磨さんが私に尋ねる。
「海尋ちゃん、何か持ってるの?」
「あ……いちおう、新幹線の冷房対策にサマージャケット持ってます」
ちょっと浮足立って答えると、京介くんが怪訝そうに言った。
「海尋、行く気なの……?」
「海尋ちゃん、さっき言ってたじゃん、京介もいるし、夜景見たくて神戸に来たって。
タクシーで行けば大丈夫じゃない?」
不機嫌な声で言った京介くんに対して、亮太くんが私を助けるように言う。
でも、京介くんは低い声で、行くことを許さないような口調で私の名前を呼ぶ。
いつも以上のこの真剣な表情で言われると何も言えない……。
……私のコトを心配してくれてるんだし、もう私一人の体じゃない……言う通りにしよう……。
そう思ってはみるけれど、正直に言うと、やっぱり見たくて。
でも、やっぱり諦めようとうつむいたとき、頭の上で大きなため息が聞こえてきた。
「じゃ、少しだけだよ?」
京介くんが言った。
「え? いいのっ?!」
「そんな寂しそうな顔されちゃ、許さないわけにはいかないでしょ?」
「京介くん、ありがとーっ」
渋々ながらも許してくれた京介くんに思わず抱きつく。
……ふたたび、メンバーがそこに居るのをすっかり忘れて。
すかさず亮太くんがからかってきた。
「ちょっとー、いちゃつきタイムは後回しにしてよー」
ハッとした私はすぐに京介くんから離れたけれど、彼はもう一度私を抱き寄せた。
「しばらく会えてないんだから大目にみろよ」
「はいはい、わかりました。 わかりましたよー。
じゃ、みんなで行くってことで。 タクシー呼んでもらうよー」
駅側とは反対の、甲子園球場の裏手に呼んでもらったタクシーに分乗してみんなで夜景を見に行くことになった。
行き先は『摩耶山掬星台』。
そこから見る夜景が一番キレイだそうで、【1000万ドルの夜景】と言われているらしい。
―――そして今の私は……感動のあまりに、声が出なかった。
「すご……い」
それだけ言うのが精一杯だった。
まるで真黒なビロードの上に宝石箱をひっくり返したような煌めき。
手すりにつかまって茫然と見ていると、京介くんは後ろから片手で私をそっと抱いて、もう片手を手すりを掴んでいる私の手に重ねる。
私の肩にあごを乗せた京介くんもこの夜景を見て「見事だね」と一言発したきり、何も言わなかった。
私たちはこの素晴らしい景色をただただ見ているだけだった。
From free photo:写真素材 足成
気がつくと、他のメンバーたちがいない。
「みんなどこに行ったの?」
「さぁ? ……気を利かせてくれたんでしょ?」
と、京介くんは頬にキスをする。
「もう、また……」
そう言いながらも、夜であることと周りの雰囲気とにのまれてしまった私は、唇へのキスをせがむように彼を見上げる。
でも、私のお願いとは反対に、
「ダーメ。 他のヤツらにキスしたあとの海尋の顔、見せたくないからお預け」
とイジワルな微笑みをして言った。
それから、親指で私の唇をなぞり、そして、耳元でささやく。
「代わりに……あとで思いっきり可愛がってあげるからね?」
そう言われた途端、体中が心臓になったかと思うほど鼓動して……甘い声でのささやきにぞくりと身を震わせた。
……未だにこういうたぐいの甘い囁きに慣れないんですけど。
もちろん、言われるのは嫌いじゃないけど……慣れる日がいつかはくるのかな、なんて思う。
「あ、でも、……お腹の子に障るかな…?」
京介くんは心配そうに私のお腹に手をあてる。
「さ、さぁ……?」
そのとき、私と京介くんのケータイがメール着信音を鳴らす。
お互いに確認してみると、私のほうは翔くんから。
『先に帰るね。 ごゆっくり』
と書かれていて、瞬時に顔が赤くなる。
「しょ、翔くん、先に帰るって」
「こっちは一磨から。 …一磨も先に帰るって」
「じゃあ、みんな帰っちゃったんだ…?」
「みたいだね」
「そっか……」
ここまで一緒に来たのに別々に帰るってことにちょっとしんみりしていると、
「なに? オレがいるのに、アイツらが帰っちゃって残念?」
と京介くんが、わかってるくせに、からかうように聞く。
「そういうわけじゃないけど。 ……あっ」
そのとき、私は肝心なコトを思い出した。
「どうしたの?」
「私……泊るトコ、確保してない……」
京介くんは事務所が用意した、みんなと一緒の宿に帰るだろう。
元々は私はこちらに来る予定ではなかったのだから。
だから、新幹線を降りたらすぐに宿をとるつもりだったけれど、乗り過ごしためにすっかり忘れてしまっていたのだ。
「……今からでも、神戸ならビジネスホテルでも空いてるよね?」
私がそう言ったとき、京介くんがふわっと抱きしめた。
「なんで同じ土地にいて夫婦で別々に泊らなきゃなんないの?」
「え、でも、京介くんはみんなと……」
「もう少ししたら、行こっか」
「あ、うん……」
そうして、ふたたび二人でこの展望台からの夜景に見入るのだった―――。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
【1000万ドルの夜景】を堪能したあと、私たちはタクシーで神戸の街に戻ってきた。
一度、京介くんが泊っていたホテルに向かい、マネージャーさんやメンバーのみんなに断りを入れ、彼の荷物を持って、別の宿に向かうことになった。
「えっ……こ、ここ??」
タクシーが到着したそこは全国でも有名なホテルで。
ガイドブックにも、部屋の窓から見える夜景が圧巻だと書いてあった。
「急遽、予約入れたからスイートは取れなかったけど」
そう言いながらタクシーから下りると私の手をとってフロントに向かう。
…と思ったら、フロントを通り過ぎて。
「え?チェックイン、こっちじゃ…」
すると、その隣にある特別フロア専任コンシェルジュがいるデスクに歩いていく。
スイートは取れなかったものの、特別フロアにある部屋を予約したらしく、このホテルでは特別フロアの宿泊手続きはフロントではないらしい。
……宿泊手続きをしている間じゅう、私は京介くんに見とれていた。
何をやっても様になってて。
国民的アイドル・グループWaveのセクシー担当、中西京介。
個性豊かなメンバー全員それぞれにファンがいるけれど、彼はセンターの翔くんと1,2位を争うほど多くのファンがいて。
隣のデスクに座ってるキレイな女性コンシェルジュの人もチラチラと視線を送っている。
……どうして私なんかを好きになってくれたのか不思議。
そんなことを考えて、ちょっと落ち込みそうになっていたとき。
「海尋、行くよ?」
と京介くんの声。
「あ、うん……」
彼は私のバッグと自分のバッグを持ち、私たちはコンシェルジュの案内で部屋に向かう。
そして通された部屋の窓から見えたものは―――神戸の街が魅せる、光の洪水だった。
「うわぁっ、すごい!」
私は思わず窓辺に駆け寄る。
「京介くん、すごい! ねぇ、京介く……」
振り返ると彼はコンシェルジュの人に説明を受けながら何かを話している。
(あ……そっか……)
小さな子どもがはしゃぐようにはしゃいでしまった自分を反省し、京介くんの後ろにそっと立つ。
「それではごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
そう言ってコンシェルジュの人がドアを閉めた瞬間……彼は優しい微笑みで私を抱きしめる。
「どう? 気にいった?」
「気にいるどころか……感動してる。 ありがとう、京介くん」
私は精一杯の笑顔を向ける。
きっと、この瞬間、世界で一番幸せな笑顔を。
そして、部屋の電灯を消しても窓から降り注ぐ光の洪水の中で、私たちは離れていた時間を埋めるように愛し合うのだった―――。
~ end ~
♪おまけ♪
朝……私を起こす声が聞こえてくる。
「……ひろ、…海尋……起きて…?」
「ん……」
「ほら……シャワー浴びて、朝食、食べに行こ?」
大好きな人の声が耳元で聞こえるから、目を瞑ってても顔が近くにあるのがわかって。
まどろみの中で聞く彼の声はとても甘くて、私をいとも簡単にとろけさせる。
だから私は腕を伸ばして、大好きな人の首に腕を絡める……。
「…京介、くん……大好き……」
「………そんな色っぽい顔で迫るんなら、襲っちゃおうかな?」
その一言で私はハッと目を覚まし、体を起こした。
「あ……
わわっ……」
勢いよく起きたことで、何も着ていない状態の素肌が露わになり、瞬間的に掛け布団を抱きしめて胸を覆い隠す。
そんな私の慌てた様子を目を細めて面白そうに眺める京介くん。
「なーに今さら恥ずかしがってるの?
……もう、子どもまで作っちゃってるのに」
そう言って彼はベッドの端に腰をかけ、私の鼻先をツンとつつく。
「えっ……、いや、なんて言うか……癖、みたいなもの……?」
「ま、堂々とされても面白味がないけどね?」
そして、いつものようにおはようのキスを交わす。
……何日かぶりのおはようのキス。
それはだんだんと深くなっていき……私を再び夢の中へと誘おうとする。
「……海尋…」
キスの合間に愛しげにささやくように呼ばれる名前。そして、漏れる吐息。
それらは私の身体を熱くするのに十分で………。
……………。
「ひゃっ」
突然、京介くんは私の鼻をカプッと噛んだ。
「せっかく神戸に来たのに観光したいって駄々こねてたの、誰?」
「も、もうっ」
「続きは……家に帰ってからね?」
彼はクスクスと笑いながらシャワー・ルームへ行った。私はそんな彼に唖然とする。
「………信じらんないっっ」
確かに、神戸観光をしたいとは言った。だけど……。
「もーっ!!!」
昨日の夜の名残を流すように、そして火照り始めた身体を抑えるために、京介くんが出てきた後に私もシャワーを浴びに行った。頬を膨らませながら。彼はそんな私を見て、からかうようにクスクスと笑い続けていたのだった。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
チェックアウトを済ませた私たちは、山側の北野異人館街へ行く前にホテルから見えていた【神戸ポートタワー】へ行った。
外壁部分の作り方が変わっていて、パイプ状のものを組み合わせて世界にも類をみないらしい。
「京介くん、すごい、この喫茶室、床が回転するんだって。 こんなの、初めて!」
いろいろと初めて見るものに私は少し興奮気味だった。
「海尋、はしゃぎすぎ」
京介くんはそんな私を見て苦笑している。それからふと時計を見て、
「そろそろあっちに行かないと遅くなっちゃうな……」
と、ポートタワーでの見物を切り上げることになった。
「1日で観光する以上、時間を短くするか見るモノを減らすしかないもんね」
「異人館街は坂ばかりらしいし、タクシーで行けるところまでタクシーで行こっか。
海尋にはあまり無理はさせられないし。 ……気分、悪くない?」
「うん、大丈夫。 今は吐き気も治まってる」
私がそう言うと、京介くんは少し安心したような顔をする。
そして、私たちは、観光のメインの北野異人館街へ向かうことにした。
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
最初に入ったのは、異人館街の中でも有名な【風見鶏の館】だ。
旧トーマス住宅と言って、もともとはドイツの貿易商人の自宅として建てられたらしい。
外壁がレンガで造られた建物で、やっぱり、日本のものとは違う感じ。
「うわー、中も日本のと違ーう」
パンフレットには、ドイツ人建築家が設計したとある。
調度品も普段見るようなものではなく、別世界のようで。
外見も内装もそして調度品も日本の様式とは全然違うんだ…と思っていると、
「日本の家屋と全く同じなら有料公開する必要ないでしょ」
と京介くんが冷静に切り込んできた。
「いや、それはそうなんだけど。
……もー、思ったことを素直に口に出しただけじゃない」
と私は頬を膨らませて返す。
「あ、フグみたい」
京介くんは面白そうに私の頬を両方の手のひらでギュッと挟む。
そして、鼻先にチュッとキスをする。
「も、もー、こんなとこでっっ」
平日とはいえ、異人館の中でも有名な館だから何人かの観光客がいて。
その人たちが私の声で振り向いた。
バレたかと思ったけれど、それは大丈夫だったみたいで。
そのあと、その人たちは視線を元に戻す。
「黙ってたらわかんなかったのに」
京介くんはクスクスと笑いながら先を歩いていく。
私は小走りに京介くんを追いかけていった。
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【風見鶏の館】を出てから少し遅めの昼食をとったあと、次の目的に向かった。
次に入ったのは【うろこの家】と呼ばれる、同じく、異人館街の中でも有名な館だ。
外壁を覆うたくさんのスレートが魚の鱗に似ているからだとか。
「京介くん、神戸の町がよく見えるよ」
私は京介くんを手招きして、一緒にその風景を見る。
北野異人館街の中で一番高い場所に位置しているため、その3階からは神戸の街が一望できるのだ。
夏の日差しが、この展望室から見える海をキラキラと輝かせている。
夜景とはまた違う、感動的な景色だ。
「キレイだね、京介くん」
そう言って隣にいる彼のほうを見ると……京介くんは穏やかに微笑んで私をじっと見ていた。
「……京介くん?」
「ん? お日さまにあたってる海尋もきれいだなって」
「えっ……。 い、いや、せっかくだから景色……」
「うん、景色は見たよ? でも、嬉しそうにしている海尋を見ていたい」
「……」
彼にはいつも言われてるとはいえ、思いがけない場所での言葉に私はドキドキして赤面する。
……やっぱり、慣れないかも。
このたぐいの甘い言葉には。
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そのあと、私たちは新神戸駅に向かい、帰路に着いた。
次に来る時は、残りの名所を巡ることを約束して。
―――そのときには、たぶん、生まれている子どもと一緒に。
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「海尋、大丈夫?」
京介くんが私を寝室に運ぶために抱き上げた状態で、心配そうに声をかけてくれる。
「……うん、なんとか」
新神戸駅から新幹線に乗り、東京に向かう途中で私は強い吐き気を感じた。
何とか歩けるものの、電車を乗り継いで帰ることは少し不安で。
家までタクシーで帰ってきたのだ。
「……夕ごはん、どこかで食べようって言ってたのに……ごめんね」
「いいよ、そんなこと。 新幹線の中じゃ休まらなかっただろうから、ちょっと眠ったほうがいいね」
そう言いながら、私をそっとベッドの上に降ろす。
「ん……。 ……う…! ちょ、ごめんねっ!!」
横になろうとした瞬間、吐き気が強くなって。
ベッドから飛び降りて私は再び洗面所に駆け込む。
「海尋っ」
帰ってきてすぐに胃の中に残ってると思われるものを全て出したというのに、吐き気はおさまらなくて。
もう、唾液しか出ない状態。
……確かに、昨日までも吐き気はあったものの、軽めだったのに、今日の夕方になってしかも突然にいきなり強い吐き気に襲われたのだ。
「大丈夫?」
京介くんが背中をさすりながら聞いてくるけれど答えられず、代わりに首を縦に振る。
その間にも襲ってくる吐き気―――『つわり』。
『つわり』の原因はいろいろと言われているけれど、お腹の中で赤ちゃんが育ってる証拠でもある。
人によって症状も期間も違うけれど、とにかく、私たちの子どもに出会うために乗り切らなければならない壁なのだ。
「こんなに大変な思いするなんて……」
京介くんが辛そうに言って私を抱きしめる。
―――やだなぁ、京介くん。
なんで京介くんの方が辛そうなの?
私なら大丈夫だよ?
お母さんになった人たちも乗り越えたんだもの、私にだって乗り越えられるよ。
だから、京介くん、子どもが生まれてからのコトをいっぱい話そう?
きっと楽しいから。
―――いまはちょっとツラくて言葉では伝えられないけれど、話が出来るようになったら、そう、京介くんに伝えよう。
いろんな未来、いろんな思いを。
京介くんの腕の中で私はそんな思いを巡らせるのだった―――。
~true end~