この手はあの人のためだけにあるものだと思っていた。
あの人を抱きしめられるのは私だけだと、そう思っていた。
だけど違った。
「でんわ」
「…あ、次の子だ」
あぁそう、と慣れた返事をした。
私は部屋を出る支度を始めた。
放り出された下着をいそいそと拾い集めた、まったくどうしてこんなにも哀しいのだろうと自分に溜め息を吐き捨てながら。
ナツメ君はその電話を綺麗な声でとった。
この人が本当に憎い。愛おしい。
ナツメ君は、いつも自分の部屋に女を連れ込む。
私が知ってるだけでもセフレは5人以上いる。
もちろん私も含めて、だ。
私はナツメ君が仕様がないほど好きだ。
ナツメ君に近づくのはとても簡単だった。だけどナツメ君の心はどの女の子にも向かなかった。もちろん私にも。
だけど私は他の女どもとは違う。
体だけの関係なんて脆いだとか、そんなことこれっぽちも思わない。
ただ私がひとつだけ求めるのは私という個体をいつか壊してほしいということだけ。
私はナツメ君の手によって壊される。
私はナツメ君の手に掛かって崩れ去る。
私はいつだって真剣に生きている。ナツメ君に 私をバラバラに散り散りにされることを望んで。
心も体もナツメ君にズタズタにされたいと思っている。
私はナツメ君にとって利用価値のあるものでありたい。道具でいい。都合のいい捌け口でいい。
ただそれによって私は、精神や肉体共々崩れ落ちたいのだ。
まったくどうしてこんなにも哀しいのだろう、多分その哀しみは私の心が死ぬ時に渇く涙なのだ。
「アヤ」
「うん」
「愛してる、誰よりも」
「…私も、」