まさか…のお泊り*10*立ち止まることも出来ない | 夢 出会い 魔性

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宅配便のお兄さんの声が聞こえなくなるまで、わんわんは洗面台の前で固まってた。

声が聞こえなくなって、玄関ドアがガチャンと閉じる音がしてハッとした。

まだはだかんぼだ(笑)


「なんかね~、なんかびっくりしたー(笑)」

「はは」


シャツを着たりスカート穿いたりしながら、えへへって照れ笑いしたりして。

服を着てリビングに向かうと、灰皿が目に止まった。

あ…まずいや。

吸い殻をひょいとつまみ上げた。


「?いいよ、別に」

「…口紅付いてるから」

「ああ」


ご主人さまが結婚する前に、何度かご主人さまの実家に上がったことがある。

いつも「いいよ」って言われてたから、吸い殻はそのままにしてたんだ。

ご主人さまのタバコとは違う、わんわんの細いメンソール。

もし、おうちの人に何か聞かれても、彼女が来たとか何とか言って済ますんだろうな、って思ってたから。



…でも、さすがにそういうわけにはいかないもん。
もう、いかないもん。

口紅の付いた吸い殻を摘まんで、ティッシュでくるくる包んでバッグの中に押し込んだ。



「鍵してくから」

「うん」

「先に出てて。追いつくから」

「はい」


ご主人さまにそう言われて、何も考えずに玄関のドアを開けた。

開けて、一歩踏み出してから(あっ!)と思った。

ご主人さまの実家から、仲良く一緒に出たら変だ。

ご主人さまがそこまで考えて「先に出て」って言ったのかは判らない。

もしかしたら、ホントにただ鍵を閉めてくから、ってだけの話しかも。

でも、わんわんは(変だ)って気付いてしまった。

気付いたら、自然と足が速くなった。
速くご主人さまの実家から離れなくちゃ。

三軒くらい先のおうちの人が、庭先で水を撒いてた。
ご主人さまと一緒じゃなくて良かった。なんかもう消えたい。

とことこ歩き続けたら、後ろから足音が聞こえてきた。

足を進めながら、不自然じゃない程度に顔だけでチラと振り向いて見た。

ご主人さまだ。あとは誰もいない。

立ち止まって待ちたくなった。

でも、待っちゃいけない気がする。

ご主人さま、「追い付くから」って言った。

自然とご主人さまが追い付いてくれるまで、わんわんは立ち止まっちゃだめだと思った。



とことこ
カッカッカッ
とことこ
カッカッカッ


数メートル後ろの人を待てないんだ、わたし。
下唇を噛んだ。
速く追い付いて、って思った。
何かに抵抗するみたいに、少しだけ進みを遅くするのが精一杯。
これでご主人さまの進みも遅くなったら凹むなあ…なんて考えた。
大きくなってくる足音にホッとする。


「今日は暑いなあ」

「ねえ(笑)」


ご主人さまがわんわんの隣まで来てくれた。
進む速度がおんなじになった。



さっきまで泣きそうな気持ちだったことは、ご主人さまにはないしょ。