軽めのメニューもあるかな…って期待はキレイに裏切られた。
普通のカツ丼が1番軽そう(笑)
ご主人さまは大盛りを頼んでる。
(…もうすぐバイバイ…)
正直、味は判らなかった。
えいえいって、カツ丼を体に詰め込む感じ。
食べ終わったら、あとはすぐ駅。
たまらない気持ち。
今は隣にいる。
けど。
「駅前で降ろすから」
「はい」
改札まで送って貰えないんだな…って、一瞬思った。
すぐに(改札で泣き出すに決まってるじゃん)って思い直した。
ご主人さまが改札まで送ってくれたら、わたしそこから動けなくなる、きっと。
ご主人さまは言った通り、駐車場じゃなくて駅前のロータリーに車を停めた。
「いろいろありがとう」
「ああ」
「…行くね」
運転席のご主人さまを見た。
視界が揺れた。
「泣いたな」
「泣いてない」
「泣いた」
「…泣いた」
午後4時。
外は全然明るい。
ご主人さま、嫌がるかなあ。
おそるおそるご主人さまに近付いてキスした。
止めなさいって言われると思った。
言われなかった。
抱きしめるようにして、キスを返してくれた。
頭をぽんぽんとなぜながら
「大丈夫だから」と言ってくれてた。
うん
うん
何回も頷いた。
「泣いてるとナンパされるよ」
笑いながらご主人さまが言う。
「私なら泣いてる女はほっとく。こわいから」
「そうか(笑)」
「…行くね」
「気をつけて帰りなよ」
「うん。大丈夫」
車から降りて、ご主人さまに手を振った。
ご主人さまも振り返してくれてる。
車を進めながら、何回も振り向いて手を振ってくれてる。
見えなくなるまでずっと手を振ってくれてた。
ご主人さまが見えなくなったら、もっとダラダラ涙が出た。
視界が怪しくて、何かにつまずいたりしながら歩いてた。
みんなジロジロ見てる気がするけど、
旅の恥はかき捨てだもん!なんて思った。
変な男の人が、ずっと何か言いたげに着いて来てた。
(はは…ホントにナンパされるよご主人さま)
ちょっとだけ可笑しくなった。
新幹線の改札口で立ち塞がれたけど、
わあわあ号泣しながら、男の人に気付かないフリして横をすり抜けた。
『変な人が着いて来てた』
ご主人さまにメール。
『弱みに付け込む奴はいるから』
なんとなく文面が苛立ってるように感じて、勝手に嬉しくなった。
ご主人さまに『その女に声掛けんなよ』って威嚇してもらった気がしたのだ。
新幹線の中でもずっと泣いてた。
泣いてても目立たないから助かる。
普通の電車に乗り換えても止まらなかった。
わたし、かっちょ悪いなーって思ったけど、止まらなかった。
車両の隅で俯いてずっと泣いてた。
みんな、帰ってから
「すげー泣いてた人がいたよ~」とか、笑い話にしてくれればいいや。
そんな風に思ってた。
きっと、こんな風に泣きながら帰るんだろうな…ってご主人さまは思ったんだろう。
だから『来るな』って言ったんだ。
まんまと泣きながら帰っちゃったよ。
少し、くやしい。
少しだけ、くやしい。
おしまい