「…みんな…長いの?」
「だな」
「転勤前から?」
「転勤後に知り合った人はいない」
「…そか」
聞きたいことを思い付くとポツリと尋ねる。
ご主人さまがそれに答えてくれる。
それ以外の時は普通にケラケラ笑って、釣竿を引き上げて「餌取られてるー」なんて言ったりしてた。
いくつの人?
あとの2人はいくつ?
みんな独身?
時間を掛けて、少しずつ。
1つ1つを自分で消化しながら。
ご主人さまは時々は即答じゃなくて考えながら、
それも嘘を用意する…とかではなくて、ちゃんと思い出しながら、答えてくれてた。
わんわんがヒトデを釣り上げて、ご主人さまがゲラゲラ笑った。
触れなくてキャーキャー言ってた。
ご主人さまが笑いながら針から外してくれてる。
裏返ったヒトデの触手みたいなのがモゾモゾ動いてる。
海に戻したかったけど触れなくて、やっぱりキャーキャー言ってた。
「自分で釣ったんだから自分で戻しなよ」
ご主人さまが私の様子を見て「痛くないから」とか「刺さないから」とか言ってる。
触れなくて、側に落ちてた貝殻でヒトデを摘もうとするわんわん。
それを見て笑うご主人さま。
仕方ないなあ、って顔をして、ご主人さまがヒトデを海に戻してくれた。
「けっこうほったらかしになってるんだよな」
「ヒトデ?」
「そそ。海に戻されないでアスファルトの上で干からびてる」
「なんで?食べないなら海に戻せばいいのに」
「俺もそう思う。殺生する必要ないしな」
「必要ない殺生はするべきじゃない」
「なあ」
ご主人さまがヒトデを戻してくれて良かった。
そのままでいいよ、みんなそうしてるんだし…なんて言われなくて良かった。
わんわんは、このヒトデしか釣れなかった。
ご主人さまは何も釣れなかった。
でも話はたくさん出来た。
釣り糸を垂れてのんびりした時間を過ごした。
ゆっくり過ぎてゆく時間の中で、ポツリ、ポツリと話が出来た。
わんわんが話しやすい時間を、ご主人さまが作ってくれたのだ。
そう思った。