懲りずに妄想する犬【8】 | 夢 出会い 魔性

夢 出会い 魔性

日記だったり思い出だったり願望だったり不倫だったり。




「何か食べる?」

「お菓子?…あッ」


ブゥンって身体の奥でタマゴが揺れた。

「なに?」

「…う」

ご主人さまはポテトチップの袋を手に持ってる。

もう片方の手はポケットの中。

ポケットの中の手の中にはロ/ーターのリモコン。
ご主人さまは、何食わぬ顔でそれのスイッチを入れた。
で、「なに?」なんて言ってる。

急に動き出したタマゴの振動で、膝がかくかく揺れてしまいそう。


ポテトチップを持ったまま、ご主人さまは少し屈むようにしてわんわんの耳元に口唇を寄せた。

「変な声が出てるよ」

近くでそう囁くから、ご主人さまの呼吸音まで耳が拾ってしまいそう。

たまらなくなって首を竦めた。

「そ…んなこと、ない」

「頑張るねえ」

笑いを噛み殺しているみたいなご主人さまの口調。

こころが震える。

ご主人さま楽しそう。ご主人さまが楽しいとわんわんも楽しい。

わんわん…そんな風にご主人さまに笑われたいの。
仕方ないなあって表情で見られたいの。

そういう表情を向けられた時に胸が高鳴って、
わんわんはご主人さまがいないとダメなんだなあ…って思う。

(気持ちいいの我慢してるんだね)

そう言われてるみたいに感じる。


「どこ見てる」

「…え?」

「心ここにあらず(笑)」


意識の焦点が合わなくなってきてた。
きっと目付きがトロンとしてたんだ、私。


「…わんわんの心は…」

「ん?」

「いつもご主人さまのところ」


ご主人さまを見ながらはとても言えなかったから、
ツンとそっぽを向くようにしながらそう返事した。
ははって笑い声が聞こえた。


「行こうか」

「チョコのも買う」

「好きだねぇ」

食べたかったというよりは、バツの悪さでそう言って、
てきとうなチョコのお菓子を1つ手に取った。


「セブンスターのボックス」

「はい」

カウンターにお菓子を置いて、ご主人さまが煙草の銘柄を店員さんに告げてる。

お財布を出そうとしてバッグを開くと、
もうご主人さまが1000円札をカウンターに置いていた。

店員さんがご主人さまの手の平に渡したおつりが、
カツンカツンと音を立てて床に零れ落ちたのが見えた。