「何か食べる?」
「お菓子?…あッ」
ブゥンって身体の奥でタマゴが揺れた。
「なに?」
「…う」
ご主人さまはポテトチップの袋を手に持ってる。
もう片方の手はポケットの中。
ポケットの中の手の中にはロ/ーターのリモコン。
ご主人さまは、何食わぬ顔でそれのスイッチを入れた。
で、「なに?」なんて言ってる。
急に動き出したタマゴの振動で、膝がかくかく揺れてしまいそう。
ポテトチップを持ったまま、ご主人さまは少し屈むようにしてわんわんの耳元に口唇を寄せた。
「変な声が出てるよ」
近くでそう囁くから、ご主人さまの呼吸音まで耳が拾ってしまいそう。
たまらなくなって首を竦めた。
「そ…んなこと、ない」
「頑張るねえ」
笑いを噛み殺しているみたいなご主人さまの口調。
こころが震える。
ご主人さま楽しそう。ご主人さまが楽しいとわんわんも楽しい。
わんわん…そんな風にご主人さまに笑われたいの。
仕方ないなあって表情で見られたいの。
そういう表情を向けられた時に胸が高鳴って、
わんわんはご主人さまがいないとダメなんだなあ…って思う。
(気持ちいいの我慢してるんだね)
そう言われてるみたいに感じる。
「どこ見てる」
「…え?」
「心ここにあらず(笑)」
意識の焦点が合わなくなってきてた。
きっと目付きがトロンとしてたんだ、私。
「…わんわんの心は…」
「ん?」
「いつもご主人さまのところ」
ご主人さまを見ながらはとても言えなかったから、
ツンとそっぽを向くようにしながらそう返事した。
ははって笑い声が聞こえた。
「行こうか」
「チョコのも買う」
「好きだねぇ」
食べたかったというよりは、バツの悪さでそう言って、
てきとうなチョコのお菓子を1つ手に取った。
「セブンスターのボックス」
「はい」
カウンターにお菓子を置いて、ご主人さまが煙草の銘柄を店員さんに告げてる。
お財布を出そうとしてバッグを開くと、
もうご主人さまが1000円札をカウンターに置いていた。
店員さんがご主人さまの手の平に渡したおつりが、
カツンカツンと音を立てて床に零れ落ちたのが見えた。