「煙草が無いな」
ご主人さまは、1度開けたボックスのセブンスターをぐしゅと握り潰した。
「…わんわんのならあるよ」
トロンと蕩け始めた意識を引き戻して、バッグの中をがさがさと探る。
はい、と箱ごと渡すと、細い煙草を1本咥えて火を点けてから
「吸った気がしないなあ」って苦笑いしてた。
わんわんの煙草を咥えたまま、ご主人さまは気まぐれにリモコンのボタンを押してる。
オンのスイッチとオフのスイッチが分かれているわけじゃなくて、
1度押したらオンで、また押したらオフ。
何回か押してると、ご主人さまにはオフだかオンだか判らなくなる。
オフのまま車はコンビニの駐車場に停まった。
ご主人さまは煙草を買うのだろう。
「行くよ」
「わんわん煙草あるよ」
「行くよ」
…ああ、降りなさいってことだ。
ご主人さま、ちゃんとリモコンを握ってポケットにしまってる。
恥ずかしいけど可愛らしいアクセサリーを着けて、
身体の奥にはロ/ーターを入れてて、
着ている物はコート1枚とロングブーツ。
ドアを開けたら、ひんやりとした空気が汗ばんだ身体に心地好い。
コンビニの入り口の脇のごみ箱にくしゃくしゃのセブンスターを放り込むご主人さま。
なんとなく1人は不安で、ご主人さまと離れないようにくっついてお店に入った。
「トイレ借ります」
店員さんにそう言って、ご主人さまはコンビニのトイレに向かってしまった。
まさか着いて入るわけにはいかないから、トイレの前で落ち着きなく待ってる。
トイレの順番待ちしてる人みたいだ。
いつもはお菓子とか本とかてきとうに眺めてるのに、
やっぱり1人はなんとなく不安でトイレの前から動けない。
「?トイレか」
「…うん…ううん…うん」
出てきたご主人さまに聞かれても歯切れの悪いわんわん。
「うん、トイレ」
「入れば」
「うん。うん、待ってて」
「別に置いてかないし(笑)」
違うの。
どこも行かないでトイレの前で待ってて欲しいの。
……なんて言ったら笑われる、きっと。
だから言わずに、心持ち慌ててトイレに入った。
用をたしてしまってからアクセサリーを思い出して、どうしようか…と思案。
幸いウォシュレットだったので、それを使ってからティッシュで軽く押さえて水気を拭った。
トイレを出るとご主人さまはスナック菓子の辺りで棚を眺めてた。
思わず小走りでご主人さまの元に向かうと、
「なに慌ててんの?置いてかないから」って笑われた。
だって、だって、こんな格好。
1人で居るなんて、無理なんです。