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里穂とは店を出てすぐに別れた。
さすがに明日の試験は勉強しないと大変だという理由だった。
二人でいては勉強そっちのけで話し込んでしまうよ、と。
そう話す私に里穂は笑って頷いた。
お互いの姿が見えなくなるまで手を振り合ってから、私は家に向かって歩き出した。
そしてすぐに足を止めた。
一つ深呼吸をする。早くなりそうな鼓動を、ゆっくりと落ち着かせる。
(……うん、大丈夫……大丈夫)
ずっとハンカチを握りしめていた手はすでに感覚がなく、でも確かに熱がこもっていた。
すっかりよれてしまったそれを、制服のポケットに無造作に押し込む。
半分だけ嘘をついた。
勉強したいから家に帰るなんて、そんな真面目な人間じゃない。
あの空間に居続けることに、涙を流す里穂と一緒にいることに、心の奥底がザワザワし始めたから。
もしそれに耐えきれなくなったら私は、また…………
頭を振って考えを振り切る。
今のままでは明日の試験が目も当てられないことになるのは本当のことなので、おとなしく家路につくことにした。
鞄の中から鍵を取り出そうとする――――
そうして、私はその後学校へと戻る羽目になり、保健室での光景を目撃することになる。
脳裏に焼き付いて離れなかったあれは見事に勉強を手につかなくさせ、試験は散々な結果に終わったのだった。
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