一目ですぐに分かった。
これは見てはいけないものだ、と。
日が落ちかけた薄暗い夕暮れ時。
下校する生徒の数もすでにまばらで、夕闇に染まりつつある廊下は不気味なほどの静寂に包まれていた。
今は試験期間で部活はないけど、その部活だってとっくに終わっている時間。
私自身、普通はこんな時間に学校にはいない。
でも家に帰ることができなかった。とても単純な、あるいは間抜けな理由で。
……鍵を忘れたのだ。こともあろうに教室の自分の机の中に。
一つだけ褒めることがあるとすれば、忘れた場所と経緯をちゃんと覚えていたことだ。
『チサ、これあげるー!』
友だちの有希が休みに彼氏とテーマパークに行ったらしく、お土産に私が前から欲しいと言っていたキャラクターのキーホルダーを買ってきてくれた。
ちなみにチサというのは私のあだ名だ。早川千紗季(はやかわちさき)の名前の最初の二文字をとってチサ。
欲しかったものをもらえて嬉しかった私はすぐに家の鍵にそれを付けた。しかし、それを鞄に戻さずに、机の中に入れてしまったのだ。
後でもう一度見ようと思ったのかもしれないが、あまりに不用心なことだったと反省する。
果たして鍵はしっかりと机の奥で眠っていた。ひとまず安心して鍵を鞄の中に入れる。確かに。
さっきはまだ山の間から顔をのぞかせていた太陽も沈み、残光すら消えつつある。
安心と同時に薄気味悪さが芽生え始めてきた私は、すぐに学校を出ようと思った。
でも教室を出て階段へ向かう途中、人の気配を感じて足を止める。
その場所は私の教室から2つ離れた部屋、保健室だった。
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