世界一のお姫様は、誰からも愛されました。
皆に大切にされて生きてきました。
四国の王子に守られて、お姫様は幸せです。
とてもとても幸せです。
けれど、お姫様の名前を知る者は誰一人としていなかったのです。
お姫様は、普通の女の子に憧れました。
暖かい家族に憧れました。
けれど、憧れは所詮、憧れでしかないのです。
日に日に募る寂しさは、やがてお姫様の心を壊してしまいました。
―――お姫様は嫌だ。
ボロボロの人形は叫びました。
けれど人形は声を持ちませんから、その叫びは誰にも聞いてはもらえません。
ある晩、やって来た王子様が言いました。
「僕を人間にしてくれたのは君だよ。次はきみの番だね」
ニコニコ顔の王子様は、お人形に魔法をかけました。
「王子様、ありがとう」
お姫様は声を取り戻し、自由を手に入れたのです。
「お姫様も悪くないかも」
だって、王子様に愛してもらえるから。
……ね?
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