「あの…どうぞ…お茶です」


ソファに並んで座る神威と阿伏兎の前に、新八はお茶をおき、同じように神威たちと向かい合って座る銀時の前にいちごミルクを置いてから自分も隣に座った。

大抵はソファには神楽が座っているのだが、今日は銀時たちの後ろに定春とともに控えている。

警戒心満々だ。

触れるもの皆傷つけるナイフ並に。

銀時や新八ももちろん警戒していた。

阿伏兎に対する警戒心は薄いが、神威の対する警戒心は分厚い。


「で…何の用だ?」


どうせ神威のことだ、「遊びにきた」とか「観光」とか、「バレンタインのお返しを貰いにきた」とかって言うに違いない。

だからあんまりきく意味はないのだが…案の定神威はこう答えた。


「今日はホワイトデーだろ?だからお返しもらいにきた」


図太いというかなんというか…素直な奴だ。

あ、今銀魂見てるんだけど、ちょうど阿伏兎落ちたところだ。「共食いは嫌いなんだ…」か。いや~、阿伏兎は本当いい奴だよ。まぁ、N(ナレーター)が書く話では大抵そんな役回りしか回ってこないけど。


「……え?」


「だから、俺、バレンタインにチョコケーキあげただろ?テレビじゃ、ホワイトデーにバレンタインデーのお返しをするもんだってやってたからさ。受け取りにきたんだよ」


「……いや、あの…そのだな……」


言い難い。

非常に言い難い。

わざわざお返しを受け取るためだけに地球にきた奴等に、

「すみません、お返しないし、アンタ達がいると気が気じゃないんで帰ってもらっていいっすか?」

なんて言えるわけがない。

しかも神威と阿伏兎は夜兎族だ。

銀時は命の危険を感じ、何も言えない。

「頼むから誰も下手なこと言うなよ」的なオーラを出している銀時だが、そんなの知ったこっちゃないのが神楽。


「お返しなんか用意してないネ!さっさと帰るヨロシ!」


さっさと言ってしまう。

神楽も神楽で言いたいことははっきり言ってしまう。

やっぱり、神威と神楽は兄妹なんだなぁ。

銀時は慌てて神楽の肩を掴んで揺さぶる。


「神楽ァァ!てめっわざわざ来てくれたお客様になんてこと言うんだァァ!」


「だって本当アル。大体、アレ腐ってたネ。っていうか銀ちゃんも、"お返しはしなくていい"って言ってたアル」


「かーぐらちゃーん!俺はアレだよ?あの…まさか受け取りにきてくれるなんてこれっぽっちも思ってなかったモンだからさァ、用意しちゃって腐らせてももったいないないなーとかって思ってたわけだよ!だから用意しなかったの!要するにエコなのエコ!」


必死な銀時。

相手が自分に危害を加える気はないのは分かっているのだが、もしもの時っていうのがある。

大体今は夜兎2人だし。

っていうか、神威と神楽の兄妹喧嘩が始まるのが怖い。

コイツら2人の喧嘩をとめられるのは、お母さんか、おやつの時間か、ごはんの時間ぐらいなモンだ。

慌てふためく銀時を新八が宥める。


「銀さん、落ち着いてください。

えっと…すみません、本当にお返し用意してなくて…あの、今から作ったりっていうのはアレですけど、地球のご飯とかでいいならごちそうできますよ」


意外と冷静な新八は、交渉を始めている。

多分阿伏兎がいるから安心なのだろう。それに、「神威が自分を相手にするわけがない」という思いが好くなからずあった。

ちょっと悲しくもなるけど。

新八は神威に妥協案として、地球の食事を御馳走することを提案した。

もちろん、お金を出すのは万事屋である。

万事屋は貧乏だし神威の食欲を考えるとちょっと怖いのだが、ここで殺されたりするよりはマシだろう。

神威も地球の食事を気に入っていたのか、それにはスグにのってきた。


「へぇ、それならいいかも。

お侍さん、俺、この前行ったあの甘味屋に行きたいな」


「あ?そんなんでいいのか?」


「だってお侍さん方貧乏だし、あんまり高いモン頼むと破産しちゃいそうだしね。あの店で俺が食べたいもの全部食べさせてくれたらいいよ」


幸い、以前行った甘味屋、「チャーリー」の商品は懐にも優しい値段だ。

子どもがよく買いにきているのもその証拠。

確かに大人向けに高い品もあったりするが、他の店と比べると安いものだ。

貧乏な万事屋でも、あの店でなら神威一人を満足させることぐらいできるだろう。


「いいから帰れって行ってるア」


神楽の抗議の声を強制的に終了させ、銀時・新八・神楽・神威・阿伏兎の5人は、甘味屋へ向かった。




――甘味屋『チャーリー』

一ヶ月前と変わらないたたずまいの甘味屋の軒先に、1枚の札が下げられている。


「本日休業。ごめんね☆」


「ごめんね☆」の☆が憎らしいな。

文字を読んだ神威が驚きと落胆の入り混じった声をあげた。


「あれ?今日休業なの?」


「いや、休業つっても、アイツは中にいる筈だぜ。

おーい、俺だー、開けてくれー」


銀時は店が休みだというのに、ドンドンと戸を叩きながら声をかける。

何度もこういうことがあるのだろうか、銀時は手馴れた感じだ。

全く、店員も迷惑だろう。

というより、近所に迷惑だ。

この甘味屋『チャーリー』唯一の店員も、それを分かっているのか、もうこういった銀時の行動になれたのか、閉ざされた店の中から足音が聞こえる。


ガラッ


戸を開けて出てきたのはやっぱりピカジュウのお面を被った店員の顔だ。

面を被っているから表情は分からないが、いつもは陽気な雰囲気を出している店員も、ちょっと今日は不機嫌そうな雰囲気だ。

何か試作品でも作っていたのだろうか、店の奥からは甘い匂いがする。

まぁ、甘味屋なのだから当たり前なのだが。


「何だい?今日は休業だって…あ。あの時の兄さんじゃないか」


神威を見た店員の雰囲気が少しだけ何故か陽気なものに変わった。


「やぁ、店員さん」


「ちっと色々あってな。頼むから開けてくれねェか?

それにお前さんの店も儲かるぜ」


店員は少し迷ったようだが、5人も来てくれているということや、"儲かる"ということが作用して開けてくれる気になったらしい。

銀時たち5人を店の奥に通し、そして軒先には「休業」の札を下げておいた。


「珍しいな、こんなに大人数で来るなんて。大抵銀さん一人で来るってのに」


「銀ちゃんいつも一人で来てたアルか!?ずるいネ!」


「うるせー、銀さんはアレだよ、"甘いものとらないと死んじゃう病"だからいいんだよ」


「いや、銀さんとってる方が死んじゃいます」


そんな平和な会話を交わしつつ、店員はきいた。


「ご注文はどうする?といっても、今はほとんどないんだけど…」


「大福ってある?」


神威は以前食べた大福が気に入っていたらしい。

迷うことなく、まず大福があるかをきいた。

しかし、休業だったせいか置いてある和菓子は少ない。

店員は申し訳なさそうに答えた。


「あ~、大福は今ないなぁ…」


「え、本当?どうしようかな…。

……ねぇ、店員さん。前も聞いたんだけどさ、いくつか質問していい?」


「ん?何?」


前も聞いたこと…というと、「男か女か」ということか。

店員は確かに着物を着てエプロンをしてはいるものの、着物の色は紺色だから男が着ても女が着ても全くの不自然はない。

それに一人称が俺だし、ピカジュウのお面を被っているし、どちらか分からないのだ。

しかも御丁寧に、声までどちらか分からないようにしてある。

わざわざ声を変えているのか、それともピカジュウのお面に何らかの細工をほどこして声を変えているのかは定かではないが…。


「店員さんってさ、男と女どっち?

それと、何でいつもお面被ってるの?」


「あ、それ私も気になってたアル」


「あー、そういや俺もだ」


やはりきいたのは「男か女か」だ。

神楽も気になっていたのか同意し、銀時までもが同意する。

そして阿伏兎と新八も声にこそ出さないものの、顔には「気になる」と書いてあった。


「男か女かは……秘密だ。

男女差別なくっつっても、やっぱり異性に対しちゃどっかしら壁とか差別があるからな。俺は客商売でそういうのは嫌だから秘密にしてんだ。

お面も、顔分からなくするためだよ」


「別にいいじゃねェか、たまには見せてくれてもよ」


「そうアル」


たまにはというほど来ていない神楽が銀時の言葉に同意する。

他3人も頷いた。そりゃ、隠されているものほど気になるものだよね。


「…そんっなに気になるのか?」


「「「うん」」」


全員が頷く。

店員は"まいったな"とでもいうように頭をかき、小さく溜め息をついた。

そんな店員に追い討ちをかけるように神威が言う。


「ねぇお侍さん。俺、店員さんの面の下見れたら、お返ししなくていいよ。店員さんの顔見るのがお返しでいい」


そんなに気になるものか?

神威はバレンタインデーのお返しに、店員の顔を見せろという。

最早銀時のお返しではなく、店員のお返しだ。


「頼む店員。

俺ァよォ、田舎の母ちゃんに林檎の砂糖漬けを送ってやるまでは死ねねェんだよ」


「知るかそんなん!

え~?いや…俺も人助けはしたいけどよォ……でもなぁ………」


「頼む!」


「………よーし、分かった。ゲームを始めよう。ゲームで一番になった奴に、俺の面の下を見せてやるよ。ちょっと待ってろ」


店員はそういうと、店の奥に引っ込んでしまう。

どういうことだろう。ゲームで一番になった奴に面の下を見せる?

銀時が頼んでいるのは、神威に面の下を見せることなのだが…どういうことだろう。

程なくして店員は戻ってきた。

小脇に抱えているのはボードゲーム…人生ゲームだ。


「さぁ、ゲームを始めようぜ。」


店員の面の下の表情が、笑っている気がした。