気に入らねェ。気に入らねェ。気に入らねェ。
総悟の眉根にはシワが刻まれており、どこかからか黒いオーラが発せられている。
今は昼休みで、大概の人間は楽しそうに食事をしているのだが…総悟は明らかにご機嫌ななめだ。
昼休みということもアリ、個々が好きな場所で食事をしている。
総悟は周りの人間に気づかれないよう、チラリと目だけで横を見た。
総悟の視線の先には……
「ホラ神楽、こぼしてるよ。しょうがないなー」
と、神楽が零したごはん粒をふき取ってあげる神威。
「あ、ありがとアル兄ちゃん」
どこか恥ずかしそうだが嬉しそうな神楽。
「とか言いつつ、神威さんもこぼしてますよ?」
人のことを言えない神威を見て朗らかに笑う妙。
「あはは、やぱり兄妹ですね~」
2人の似たような行動に、思わず声をあげて笑う新八。
どこの高校にもありがちな、平和な光景だ。
結構微笑ましいと思うのだが……
「……チッ」
総悟はそう思わない。
微笑ましい光景を見て、つられて笑うどころか嫌悪感丸出しで舌打ちをしている。
彼がここまで不機嫌さを露にするのは珍しいんじゃないだろうか。
誰かを怒らせるというか、誰かを不機嫌にさせることはよくあるし好んでやっているが、不機嫌になることは少ないと思う。
しかし、総悟は不機嫌…。
今適当なことを言って少しでも総悟の感に障ることを言ったなら、その場で拷問道具の実験台にされているだろう。
それも、蝋燭とかムチとかといった殺傷力の低いものではなく、それこそ頭蓋骨粉砕機とかの殺傷力の高いもの。
それほど、今の総悟は不機嫌だった。
「………何が、兄ちゃん、でィ」
総悟が不機嫌な原因。
それは、きっと…
「神楽、今日から俺も神楽と同じ家に住むつもりなんだけど、大丈夫?」
「本当アルか!?勿論大丈夫アル!部屋だってちゃんとあるネ!」
神威。なんだろうね。
神楽の兄である神威。
自分よりも神楽に…好きな人に近い神威を嫌うのは必然といえば必然だろう。
好きな奴の隣はいつだって自分でありたい。
好きな奴に一番違い人物は自分でありたい。
だが……今隣にいるのは神威だ。
いや、兄妹なんだし当たり前だろうが……総悟はどうしても嫉妬してしまう。
別に総悟は神楽と付き合っているわけでもないし、自分から何かしらアプローチをしたわけでもない。
寧ろ総悟と神楽は顔をつきあわせれば喧嘩ばかりだ。
だから総悟は、ときおり思うことがある。
神楽は…自分を嫌っているかもしれない。
不安なんだ。
神楽は自分と顔をつき合わせることも嫌なのかもしれない。
もし…もし、告白などしたら、もう今のように喧嘩さえできないかもしれない。
この関係が壊れて、もう神楽と喧嘩さえできなくなってしまうのなら…ならいっそ、このままでいたい。
総悟はそう思っていた。
だからこそ神威が羨ましかった。
兄であり、神楽の隣にいれる神威が。
神楽の頭を撫でてやれる神威が。
「………クソッ」
悶々と一人で考えていたら余計不安になってきた。
総悟はわしゃわしゃと自分の髪をかきあげると、そのまま机に突っ伏した。
どうしたら、どうしたら……。
「……?」
総悟は机に突っ伏して物思いにふけっていると、何か視線を感じた。
不思議に思って顔をあげ、周りを見てみる。
しかし誰とも目は……
「……」
屁怒呂と目が合う。屁怒呂は総悟と目があったことに気づいたのか、ニコッと微笑んだ。
キーンコーンカーンコーン
「はい、それじゃお前等、気ィつけて帰れよ」
放課後である。
総悟は相変わらず不機嫌…というわけではないようだ。
まだ少し不機嫌オーラが出ているものの、その意識は神威への嫉妬ではなく、何か違う考え事に向いているようだ。
総悟は、5時間目と6時間目考えて考えて……決めていた。
神楽に、告白すると。
自分は結構な期間神楽を想ってきたと思う。
これからだって想い続ける。
だが、今まで神楽に想いを伝えたことはない…。だから、このまま神威を羨ましがっているなら、想いを伝えて、それでフラれたならフラれたで、級友として神楽を見守ればいい。
成功したら、神楽を誰よりも近い位置で護る。
そう思ったのだ。
覚悟はできた。心だって落ち着いている。
いつだって、想いを伝える準備はできている。
が…問題は、告白の方法だった。
総悟は何度か告白をされたことがある。その方法といえば、裏庭だの音楽室だのに呼び出し、面と向かって告白するか手紙による告白だった。
自分も神楽を呼び出して、面と向かって告白するか?
「好きだ。付き合ってくれ」
と?
「ッ…」
総悟は想像してスグ首をブンブンと振った。無理だ。できるわけがない。
どんな顔して「好きだ」と伝えればいいんだ。
それなら、手紙はどうだ。
下駄箱とか机の中にいれといて……
いや待てよ?もし、もしも神楽より先に誰かがその手紙を見つけ、中を見てしまったら……。
無理だ。これもできない。
他には……電話か?
電話で伝えろと?いや、でも神楽の家には神威も……。
「あークソッ」
総悟は中々告白案が思い浮かばないことに苛立ちを覚え、思わず舌打ちをした。
「どうすりゃいいってんでィ……」
はぁ、と総悟は大きく溜め息をつき、肩を落とした。
すると、突如その肩に、ポンと手が置かれる。
何だと思い総悟は振り返る。そこには・・・
「やぁ。沖田総悟くん、だよね?」
微笑んでいる神威がいた。
続く――
にほんブログ村 ↑参加しております!