雲に覆われた空を、悠々と浮遊する船が一隻。


その船には何やら豚と人間が合わさったような奴とか犬と人間が合わさったような奴とか、まぁ天人と呼ばれる奴等が多く乗っていた。


その天人が多い船の中、2人の一見すると人間っぽい奴がいる。


一人はアホ毛に三つ編みで、笑顔を絶やさない優男っぽい奴…神威。


一人は何かシブくてかっこいいんだけど、いっつも上司に振り回されて、その度に居酒屋行って店長とか常連さんたちに愚痴聞いてもらってる感じの奴…阿伏兎。


2人が乗っている船は「春雨」の船であり、神威は春雨の第7師団団長で、阿伏兎は神威の部下だ。


神威はニッコニコしてて「人を殺すのはよくない!人、殺すのいくない!」っていう思想持ってそうなんだけど、真逆でそりゃもうハエを叩き潰すかのように人を殺す。


阿伏兎はやっぱ見た目通り、団長の行動に振り回されてそりゃもう可哀相な人。すごいいい人なんだけどね、どうも振り回されちゃうらしい。


今日はどうやら地球の近くの「すかいろっく星」に行って一仕事してきたらしい。


阿伏兎はもはや当たり前になっている「団長の我侭」に振り回され、心身的に疲労しているようだ。


一方、神威といえば涼しい顔でいつもの笑みを浮かべ、窓の下を見ている。…と思ったら、今度はカレンダーを見、阿伏兎に話し掛けた。


「阿伏兎、今日が何の日か知ってる?」


「あ?何だ団長、いきなり俺の誕生日、とか言うのはよしてくれよ」


唐突の神威からの問いかけに、阿伏兎は一瞬理解できず間抜けな声を出す。


しかし、すぐ「どうせまたバカなこと言うんだろ」とか思ったらしく皮肉げな笑いを交えて応えた。


そんな阿伏兎の応えに神威は呆れたように肩を竦め、溜め息をつき、さも当たり前のような表情で言う。


「誰もそんなこと言ってないだろ。

大体、部下なら団長の誕生日ぐらい把握しとくのが当たり前だろ」


「いや、そんな当たり前ないから」


「で、何の日か知らないの?」


話が脱線しそうになっていることに気付いたのか、神威はもう一度先ほどと同じ問いかけを繰り返す。


だが本当に阿伏兎は知らないし、どうせロクなモンじゃないだろうと思っているよう。


いきなり変なことを言い出したり人様に迷惑をかけるのは神威の性格というか、特権というか……才能と言っていこう。


あ、今「カステラ一番電話は二番♪3時のおやつは文○堂♪」がCMで流れた。


うおぉ~、すげぇ懐かしい。N(ナレーター)が小さい頃はよく流れてたモンだよ、これ。


もう今はなかなか見かけないんだが、何か久々に見て嬉しくなっちまったよ。


「今日はね、地球でいう"バレンタインデー"ってやつなんだって。チョコとかクッキーとかを誰かに送って、お返しをがっぽり貰うための日らしいよ」


今日が何の日か知らない阿伏兎に、神威は立ち上がりマントを羽織る傍ら、教えてやる。その知識は、なんというか…いや、あながち外れてはいないんだけど、違う。


そしてマントを羽織る神威も何か怪しい。まだまだ春雨の基地につかないし、他に仕事が入っているわけでも、どっかの惑星による予定などない。


「……それがなんだってんだ?」


嫌な予感がする。阿伏兎はひしひしとそう感じていた。できうるならばこんな団長の面倒など見たくない。大体、なんだってこんな団長の面倒を一人で見なきゃいけないんだ、しかも一人で。


以前はまだ云業がいたから良かったっけなぁ、2人で愚痴零せたし、何より2人で団長の世話してたから負担も今より少なかったし…。


なんて、嫌な予感からふつふつと今までの鬱憤とかが込み上げる阿伏兎。別に神威のことが嫌いってわけじゃないのだが、どうも不満はたまってしまう。


一方、そんな阿伏兎とは対照的になんか楽しそうな神威は、身支度を終えるとおもむろに戸棚を開け…一つの箱を取り出した。


それは丁度、誕生日ケーキとかを入れるようなそんな箱。唯一誕生日ケーキを入れるような箱と違うのは…何か酸っぱい匂いがするぐらいか。


神威は満足そうな笑みでその箱を小脇に抱えると、窓から身を乗り出す。窓の外は、上空。上空の下には、地球。


阿伏兎の嫌な予感はどうやら的中しそうだ。神威はガチャ、と夜兎の必須道具、傘を装着すると


「というわけで、まぁ俺もあのお侍さんや妹にチョコケーキをプレゼントしてこようと思うんだ。明日の朝あたり、江戸の歌舞伎町あたりに迎えにきてよ。

じゃ、行ってきます」


そう一方的に告げると、神威は窓からヒラリ、と飛び出した。身を投げたっていってもいい。寧ろ阿伏兎は後者を願っているだろう。


しかし今はそんなのんびり考えている場合じゃない。阿伏兎は神威が飛び出した窓に急いで駆け寄ると下を見下ろした。


「おい、団長ッ…!」


神威の姿は、もう見えない。


「あのすっとこどっこい…」


阿伏兎はとりあえず、春雨の船員達に船を停め、地球に目立たぬよう着陸するよう命じた。











『今日はバレンタインデー!

各地でピンク色っぽい雰囲気がとびかっております』



万事屋――そう看板が掲げられた家の中、銀時・神楽・新八がくつろいでいた。


テレビのチャンネルはバレンタインデー特集。

最も、くつろいでいるのは銀時と神楽ぐらいで、新八はせっせと掃除に励んでいる。


「何がバレンタインだ

こんなんはな、ただのお菓子業界の陰謀だぜ」


テレビを見てチョコをもらえない男、銀時が呟く。周りに全く女の人がいないわけじゃない。神楽に、大家に、新八の姉の妙、さっちゃんなど、案外いるのだが……縁がないようだ。


「まぁまぁ、そんな風に言わなくてもいいじゃないですか。人によっては楽しんでるみたいですし。」


パタパタと詰まれたジャンプだの棚の上だのにはたきをかける地味眼鏡、新八。


「今年は逆チョコが流行ってるらしいアル」


何かを期待するかのような眼差しを銀時と新八に向けるチャイナ風の少女、神楽。神楽の周りは生活環境から見ても男が結構多かったりするんだが…あげる予定はない、作っても自分で食べちゃうしね。


「何が逆チョコだ、そんなモン歯医者の陰謀だぜ」


神楽の期待を鼻で笑って受け流し、ピッとバレンタイン特集をやっていたテレビのチャンネルを切り替える。しかし、大抵のチャンネルがバレンタインムードだ。


「いや、何で歯医者の陰謀なんですか」


お菓子業界の陰謀というのは分かるが、医者の陰謀というのが分からなかったんであろう新八ははたきを動かす手を止めて銀時に問う。


「だってオメーアレだろ?甘いもの食うと虫歯になるじゃん。だからそれで歯医者儲かるだろが」


なんだ、そんなことも分からないのか。という視線を新八に向け、銀時は答える。だがそこで今度は神楽からの問いかけが入った。


「それじゃ銀ちゃんも虫歯あるアルか?銀ちゃん年がら年中甘い物食べてるネ」


「馬鹿、俺は虫歯にならねーんだよ。知ってるか?苺みるくってのはな、虫歯促進効果ってのがあるんだぜ」


おそらく虫歯抑制効果といいたかったのだろうが、全く逆のことを言ってしまっている。


「銀さん、それ虫歯進行させちゃってます」


「うるせーダメガネ」


新八の訂正に照れているのか単純に新八に訂正されたことがムカついたのか、間違いを認めず八つ当たりを始める銀時。


「チョコもらえないからってイラついてんじゃ…」


ズドォォン!!!


「チョコもらえないからってイラついてんじゃねーよ」と銀時が言おうとした矢先、突如万事屋の屋根が抜け落ちる。それはちょうど新八がいたあたりで、シュウゥゥ…と土煙を上げていた。


「なッ…何だ!?」


突然の事態に銀時は驚くと共に警戒し、一度屋根が抜け落ちた地点…新八が踏み潰されている地点から離れた。


「あー、良かった。ちゃんと着地できた」


はれない土煙の中からやけに落ち着いた…というか楽しそうというか、飄々とした感じの声が聞こえてくる。薄らいできた土煙から見えるのは、緩やかになびくマント、男の体、頭部に巻かれているであろう包帯、三つ編み…そして傘。


「だ…誰だ!?」


木刀に手をかけ、相手の正体を問う銀時の後ろ、神楽も背後に定春を従えながら傘を構える。


そんなピリピリした銀時や神楽とは対照的に、土煙の中の人物はシュルシュルと包帯をとりながら土煙の中から姿を現す。


「お…お前は…!」


「やぁ、お侍さん、神楽」


「神威!!」


その人物の正体は…神楽の兄、神威だった。抜け落ちた屋根はもちろん神威がぶち抜いたもので、新八を踏みつけていたのも神威。

そして…





「クソッ…あのすっとこどっこいめ!

あぁ、お前さんらは此処で待っててくれ

俺ァ団長を探してくる」


地球に着陸した春雨の船、その中から出てきた阿伏兎が探している人物も、神威だった。