――君って、神楽のこと好きなの?
という神威のいきなりの問いかけに、思わず聞き返してしまう総悟だが、これは当たり前の反応だろう。
そりゃ、いくらまわりくどいのが苦手だからって、こうも率直に、しかもいきなり訊かれたら聞き返すのが大半の人間の反応だ。
「い…いきなり何言ってやがんでィ
何で、俺が神楽を…何か根拠でもあるってのか?」
「俺のアンテナの力をなめちゃいけないよ?」
つっつくとみょんみょんとしているこの神威のアホ毛、通称アンテナ。
まさかこれのおかげで分かったとでもいうのだろうか…まさか、そんなはずない。総悟は一瞬頭に浮かんだその考えを即座に否定した。
「嘘言うんじゃねェ。
何か別の根拠があんだろ?」
「うん、さっきのは冗談」
やっぱり冗談だったか。
総悟は心の中でそう呟き、密かに安堵した。
「根拠は、そうだなぁ…君、今日ずっと神楽のことチラチラ見てたからさ。神楽のこと好きなのかなって。神楽も君のこと何度か見てたし」
そうだ、確かに総悟は、幾度となく神楽を気づかれないように見ていた。
授業中、休み時間、昼休み…こっそり、神楽と神威の様子を窺っていたのだ。
普段は今日ほど見ていないが、それでも普段から神楽の様子は気にかけている。
大分周りに気づかれないよう神楽を見ることには馴れてきたはずなのだが…神威にはバレていたらしい。
そしてまた、神楽も総悟のことを見ていたと神威は言っている。
「何言ってやがんでィ、アイツが俺を見るわけねぇだろ」
「アレ?気づいたと思ったんだけどなぁ…。
今日の昼休み、俺たちが4人で昼飯食べてるとき、神楽何度か君のこと見てたんだよ。
神楽が君を見たあと、一回君が起きて周囲見回したから視線に気づいたのかなって思ったけど」
「――…あ」
そうだ。確かに今日の昼休み、視線を感じた。
周囲を見回して目があったのが屁怒呂だけだったのであまり気にしていなかったのだが…あの視線は神楽のものだったのか。
「ね?で、君は神楽のこと好きなの?」
「……だったら何だってんでィ」
そうだ、自分は神楽のことが好きだ。
実兄である神威よりも、誰よりも神楽を想っている自信がある。
総悟の真剣な眼差しに満足したのか、神威は頷いた。
「告白は?しないの?」
「しようと思ってるんだけど、中々できないんでィ。」
「ふーん……。何なら、俺がとりもってあげようか?」
「な…何言ってやがる?」
「多分、神楽も君のこと好きだよ。
ねぇ、俺に協力させてよ?」
神威はいつものように微笑んではいるが、その声音は真剣だ。
とても総悟をからかっているようには見えない。
総悟は少し迷っていた、神楽が自分のことを好きだなんて、そんなことがあるのだろうか。
協力といったって、そんなこと…。
「放課後の図書室とかなら、人があんまりいないから告白もしやすいだろ?
明日の放課後、神楽に図書室に行くよう言うからさ」
いいのだろうか、本当に…。
でも、これで…神楽と結ばれるなら、神楽の傍にいれるのなら……。
総悟は静かに頷いた。
翌日――
朝、学校につくともう神威と神楽は来ていた。
2人一緒に登校してきたことは訊かずとも分かる。
神威は総悟が教室に入ってくると、「おはよう」と言ってニコッと笑った。
多分、この笑みは「今日の放課後、頑張ってね」っていう意味なのだろう。
それが分かるのは恐らく総悟だけだ。
神楽や周りにいた新八、妙は、神威が総悟に向けた笑みは特に意味もないと思っているだろう、案の定誰かから何も言われることなく、総悟は席についた。
今日の放課後、神楽に告白する。
神威による協力の上でだが…。
何にせよ場所の確保はこれでできた、問題はどうやって伝えるか、だ。
神威は大方、総悟が直接口頭で伝えると思っているのだろう、告白の仕方については何も言っていない。
総悟も直接伝えようと思う。
直接、伝えようと……慣れないことばかり考えていたら緊張してきた、総悟はそっと深呼吸し、放課後に備え、アイマスクをつけ授業中は全て寝ているのであった。
そんな感じで、寝ている総悟をこれ幸いと見つめる一人の少女、神楽。
教科書を盾にして横を見るという古典的な方法で、授業中何度も総悟を見た。
起きている時は気づかれてしまうかもしれない、神楽はそれが心配で普段は中々総語の方を見ることができなかったのだが、今は寝ている。
顔があまり見えないのが少し残念だが、総悟を少しでも長く見つめられるならそれでいい。
神楽は少し幸せな気分になり、周りに気づかれないよう小さく微笑んだ。
「………」
総悟の寝顔は安らかだ、今の神楽の心情とは正反対に。
現在の神楽の心情は血流血圧大上昇、迫りくる放課後の圧迫感と緊張感に押しつぶされそうだった。
神楽もまた、今日の放課後、総悟に告白する気なのだ。
今日告白することを決めたのは、昨日の夜。兄に言われたことがキッカケだ。
「神楽って、総悟のこと好きなんだろ?」
と、そう言われたのだ。最初こそ否定した神楽だったが、赤くなった顔により認めざるを得なくなった。
そして神威に相談した。
総悟に告白したいけど、総悟が自分を嫌っていたらどうしよう。
もし告白して、そしてフられて、今までのように喧嘩もできなくなったらどうしよう。
神楽も、総悟と同じ不安を抱えていたのだ。
神威は2人が両思いだということに気づいているのに、当の本人は気づいていない。
神威が総悟に神楽に告白するよう言ったのだが、意地っ張りの神楽のことだ、上手く受け答えできるかどうか…。
そこで神威は、総悟に言ったことを神楽にも提案したのだ。
「放課後の図書室で、告白したら?
兄ちゃんが総悟を図書室に行くようにしといてあげるよ」
というわけで、総悟は総悟で神楽に告白しようとし、神楽は神楽で総悟に告白しようとしている。
全ては神威の仕組んだことであるが、神威も久々に会った妹が好きな人に告白もできないのを見て何か思うことがあったのだろう、けして神威に悪意やからかいはない。
2人に幸せになってほしいのだ。
神楽もそのことは分かっているし、自分自身、総悟に想いを伝えたい。
不安だけれど、多分大丈夫。
神楽は自分を安心させるかのように、小さく頷いた。
放課後――
総悟は夕陽が差し込む図書室にいた。
昨日神威に言われたとおりに来たのだ。
神楽はまだ来ていない…総悟の心臓は破裂しそうだ。
いっそこの場から逃げ出してしまいたいのだが、そんなことはできない。
総悟は何度か深呼吸し、自分の気持ちを落ち着かせるためにも近くにあった本に手を伸ばそうとしたが…
ガラッ
丁度神楽が入ってきた。
神楽は総悟が自分より早く来ているなんて思いもしなかったから、驚いて目を見開いている。
「あ…っと…
な、何してるネ、サド」
「お…お前には関係ねぇでさァ。
ちょっと読書してただけでィ」
違う、こんなことが言いたいんじゃない。
自分はただ、相手に想いを伝えたいだけだ。
なのに、口から出てくるのはそれと正反対の言葉だ。
「ふん、どうせお前がする読書っていったら拷問とかそんなのばっかアル、もうちょっとマシな本を読んだらどうアルか」
「そりゃ、そういった本にはいいメス豚が載ってるんでねィ。言うことはきくし顔だって悪くない、俺好みの、お前とは正反対のような奴を眺めてた方がよっぽど楽しいってモンでさァ」
だから違う。
こんなことが言いたいんじゃないと何度思えば分かるんだ。
こんなことを言ったって、自分の想いが相手に伝わるわけはない。
逆に傷つけてしまうだけなのに。
だけど言葉は止まらない。
「大体、お前はちょっとガサツすぎるんでィ。
まだそこらへんにいる野良犬の方が可愛げがあるってもんだ」
黙れ、止まってくれ。
「よく新八や神威はお前なんかと一緒に入れるねィ、俺だったら3分ももた―…」
総悟の言葉が止まる。
止めたのは、神楽の涙だ。
神楽の目からはぽろぽろと涙が溢れ、図書室の床にシミを作っていく。
「そう…アルか、そうアル…ね」
「あッ…!」
神楽は図書室から飛び出した。
何を期待していたんだか、総語が自分のことを好きだなんて、そんなことありえるわけがないのに。
そんなの分かってたことじゃないか、今日の告白だって、フラれるのが当たり前と思ってたんだ。
なのに…なのに、涙が止まらない。
神楽は走りながら嗚咽を漏らして泣いた。
「う…っヒック、ヒック…ッ」
とにかく走った。
走って走って、少しでも早く、総悟から離れたかった。
だが、総悟はそうじゃない。
総悟は早く神楽の傍に行って、謝りたかった。
本当は違うんだって、こんなことが言いたいんじゃないんだって。
だから、待ってくれ。
「おい!待て、神楽!」
総悟が神楽を捕まえ、背後から抱き締めた。
いきなりのことに驚きつつも、神楽は総悟の腕の戒めから逃れようと身をよじり、抵抗する。
「は…離すアル!離せ、離し―…」
だが神楽のその抵抗もスグ大人しくなった。
熱い。
総悟の唇が神楽に重なり、熱い舌が入りこんでくる。
「ん…ッふ…っ」
総悟は唇を離すと神楽を力強く抱き締める。
どこへも行かせない、逃げさせない。
自分の傍にいてほしい、この温もりをもっと感じていたい。
総悟は素直に想いを伝える。
「好きだ。
さっきのは、違う…あんなことが言いたかったんじゃないんでィ。本当は、好きだって伝えたかったんだ」
宙ぶらりんになっていた神楽の腕が、そっと、遠慮がちに総悟の背中に回される。
「…本当アルか…?」
確かめるように、神楽は再び問うた。
「本当でィ。お前は…神楽はどう思ってるんだ?」
神楽は返事の代わりにギュッと総悟を抱きしめ返した。
*終わり*
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