雲間を抜ける、暖かな日差し
生命が芽吹き、世界は彩る
今年もまた訪れた、目覚めの季節
風の歌に導かれ、緩慢に瞼を開く
薄紅の花弁は両手を広げ
蒼穹なる絵画へ咲き誇り
その、優しく柔らかな笑顔が
この世の何よりも、綺麗だった
風と桜は共に寄り添い
久方ぶりの逢瀬を喜び、枝が僅かに擦れた
長い長い一年の中で
互いを映せる、僅かな時間
指先を絡め、温もりを分け合い
肩を寄せ、実感する
例え限りあるものだとしても
確かにそこに在る、小さな幸せ
風の居ぬ間に聞いてみた
貴女は私をうらんでいるかと
雨は鵐に降り注ぎ
翼を折る事しか知らない
永遠の開花を望む身でありながら
自らの手で、終焉を告げるばかり
俯く私に、貴女は言った
桜が散れば、初夏の宴が始まると
新緑が街を染め、太陽が煌き
作物が育ち、秋へと変わる
季節は、変わらねばならない
永遠なる花はない
それはこの世界の理であり
貴女は私を見送る、大切なものだと
ありがとう、ありがとう
ごめんなさい、ごめんなさい
絞り出す声は、貴女の腕に抱かれた
時はやがて、卯月半ば
終わりを告げる、切なき雨
数多の滴が天より落ち
貴女の身体を戒めた
一体何度、私は、貴女は
この時を迎えたのでしょう
一体何度、この手は、この想いは
互いを苦しめたのでしょう
崩れ、跪く私の身体
通り過ぎたは、一刃の風
顔を上げ、涙に揺れる視界に映ったのは
激しい雨風を、その華奢な身体に受ける彼女
枝からはがされるその姿に
声を張り上げて泣き叫んだ
風よ風よ、どうして、どうして
このとき散りゆく運命なら
せめて安らかにと、願うのに
どうか、彼女を苦しめないで
これ以上、私を苦しめないで
悲痛の声は、風に溶けた
私は、貴女を愛している
泣かないで、雨
ひとひらの花弁が、頬を掠めた
再び瞼を開くとそこには、幻想的な桜の舞
世界を魅了する、最期の舞台
いつしか話した、あの言葉
貴女は私の大切な人
私を導き、次なる節へ
そしてまた、訪れる、春
どうか、自分を責めないで
どうか、貴女を救って欲しい
私は後悔も、寂しさも、苦しさもない
ほんの一時でも、誰かの心に残るなら
それが、生きとし生けるものの幸せ
風の歌に揺り起こされ
雨の唄で眠りにつく
そんな節の道しるべ
二人は私の大切な人
私も、愛している
雲が晴れ、雨が止み
風が治まり、日差しが注ぐ
水たまりには、鮮やかな薄紅
ありがとう、また来年
貴女の唄を聞かせて欲しい
優しい声が紡ぐ、世界にたったひとつだけ
私だけの、ララバイ



