暗く静かな夜道も
この時期になると
騒がしくなるものである。
帰りの途中で通る公園は
いつの間にか街灯で
白桃の花弁を輝かせていた。
この辺ではそこそこ有名らしく
川の向こう側にある家まで
届くほどだった。
「もう3度目か」
そっと笑って、公園を通り過ぎた。
階段を登り、自分の部屋に着いた。
『302 夢藤 理一』
表札を見て眉をひそめてしまうのは、
親の教育にうんざりしてたからだろう。
夢藤家は裕福な家庭だ。
自動車メーカーの
社長を務める父を持ち、
養子にして貰いたいと思う家庭も
決して少なくないだろう。
そんな家庭に俺の性格では
不釣り合いだった。
両親は自慢の息子にしたいらしく、
ピアノだのテニスだの塾だので、
放課後に何かする余裕はなかった。
登下校さえ、車での移動だった。
そのせいで
クラスメイトと距離を感じるし、
青春なんて知らなかった。
有名国立大学の合格発表だって
周りとの雰囲気の溝を感じた。
才能が開花した代わりに、
青春を踏みにじられたのだ。
運が良かったことといえば、
1人暮らしを許してくれたことだ。
そうしてやっと普通の
4年間の自由を手に入れた。
やがて俺は野望を
夢見るようになった。
~一人で旅をしたい~
そう思って最近は帰ってすぐ
調べ物をしていた。
そして昨日、あるサイトを見つけた。
『見ず知らずの世界へ旅しませんか』
どうも胡散臭いサイトではあったが、
自分の理想通りの旅であった。
無意識のうちに注文していた。
画面には、
『担当の者を向かわせます。
明日の21:00までに料金を用意して
待っていてください。』
と書かれていた。
その時にはもう
心臓が凄い速さで鼓動を打っていた。
その時がきた。
聞き飽きたチャイムを聞き、
ドアを開けると、
スーツ姿の男がいた。