女に近づいた最初の理由は

ただの好奇心だったのかもしれない


何度か重ねた会社帰りのデートで

男は自分のペースを失った


男が今まで接してきた女性とは

違うタイプのその女に興味を抱くまで

さほどの時間はかからない



休みの日に何故誘ってこない?



その問いを投げかける男の横顔に

少年をみた女は

もう一歩で男を落とせると直感した


と同時に


自分自身も同じプールに

落ちてしまう可能性を忘れかけていた


そして

ふたりは


自分たちの人生をそれと知らずに

狂わせていく


あの夏のむせかえる程に

甘い、

そして

妖しすぎるクチナシを


二人ともが

決して忘れることはない・・・



最初から話していたら

オマエは付き合ってくれたのか・・・



最初から話していてくれさえすれば

もっと違った付き合い方が出来たのに・・・




ほんの気まぐれで動き出した恋は、

時に、お互いの思っていなかった所へ

流れ着く。


今は、もう・・・

「あいつ」を責める気は、ない。




明け方、突然くれたoversea call



今、日本は何時?

5時だろ、もうこれ以上待てなくて

電話したんだよ・・・



人事にさ・・・

掛け合ってみようと思うんだ


赴任を

あと半年から1年延ばして貰えるように・・・




何を言っているのか

その時の私には全く理解できなかった。



お互いの未来のためにさ、

希望が通るように

オマエも祈っててくれ・・・



オカシナ事言うのね?

でもいいわ・・・

貴方の声を聞いて一日が始まったから・・・



「あいつ」が酔わなくてはいけなかった訳を

私はこの電話の1年以上もあとに

知ることになる。







あの頃はね

私は大きな恋を失って

その痛手から

抜け出すのが難しくて


毎日が

苦しくて苦しくて

仕方なかった。



あの頃、

貴方が私に対して

そうであったように

私もまた、

貴方のように真剣に

人を愛していた。



信じてたものが

目の前から

音を立てて崩れていくのを

どうすることもできず


ただ呆然と

見つめているしかなくて


本当に愛してるのなら


スガリツイテ

泣きわめいてもいいのに・・・

と思いながらも


取り乱したい気持ちを抑えて

冷静に物事を判断しようとする

自分がいて・・・


長い時間をかけて

暗示にかけられ


将来の夢を

ふたりで語り合った事実の前では



どういう事なのか

とてもとても

理解するのが難しすぎて・・・



悔しいけど

つらいけど

修正する意味なんて

少しもないこと


そして、


砂の上に城を作っていたのは

自分の方だと客観的に知り


今思い返してみても

あれほどの経験は

後にも先にもないのだと。



裏切られるって

こういうこと?


そう感じながらも

どこかで違っていて欲しいと

ひたすら願っていた。



正直言って

あの出来事以来、

私は変わった。



この間

貴方、言ってくれたでしょ?



このまえ、久しぶりに 

あいつとすれ違ったんだ、

すれ違ったとき、

ふつふつと

何だか怒りが込み上げてきて

殴りたくなっちゃったんだよ・・・




私嬉しかったの、とっても・・・


私と、

貴方の言う「あいつ」との関係を

知らないはずの貴方が

何となく噂で聞いてたんだろうね、

私と「あいつ」に何かがあったこと・・・


そして、


私のために、

怒りを覚えてくれる人がいるなんて

私はなんて幸せなんだろうって・・・


あとになって、あの無礼な「あいつ」を

殴り倒しておけばよかったと思いつつも

貴方に心の中で殴ってもらえたのなら

それでいいか・・・・と


昔々の恋に、

本当にピリオドを打てたような

そんな不思議な気持ちがして

妙に清々しかった・・・


もう

きっと

あの恋のせいで

古傷が傷む事は

なくなるような気がしている・・・







あの頃、

今みたいに連絡を取ることが

容易でなかったから

縁がなかったなんて

言いたくないよ・・・


簡単にメールや携帯で

連絡取れないからこそ

こんなに逢えなくても

気持ちは変わらず

貴方を想っていられると


充分に

大人になったはずの今でも

信じている。



貴方が私に書いてくれた

ラブレター・・・


貴方は

これはjust a messageだと

書いてたけど、

私にとっては大切なラブレター・・・


貴方の少し丸みを帯びた字体と

貴方の息使いが伝わってくるような

短くそして簡潔に綴られるセンテンスは

今でも、的確にそして真っ直ぐに

貴方の想いを伝えている。


挫けそうなとき

ボックスから取り出して

繰り返し読み返し

勇気をもらってたけど


そろそろ

頼ることは

御終いにしなくちゃいけない




これを受け取ったときに

かすかに香ったタバコの香りは

今はもう消えている。


そう、

そして今ではもう

煙をくゆらす貴方に

出逢うことは出来ない・・・



自らの足でたつこと。


他力本願ではなく

叶えたいことは

自分自身の力で・・・・



そう考えて必死だったあの頃



良くも悪くも一途で

決めたら

それしか目に入らない、

一秒たりとも無駄に出来ない

そんな強迫観念にも

似た思いを抱きながら



目標へ邁進するあまり

自分自身の人生に

深く関わってくるであろう

大切な人の申し出を

私は心の奥で

理解する余裕を失くしていた。


むしろ

その大切な人に

甘えきっていた。


貴方のあのときの言葉が

今になって私に突き刺さる。



大切な宝物のような人が

そこまで言うのなら、

俺はそれを尊重するよ・・・

あの年のあの日、

私達が再会を果たしていたのなら

こんな結末を迎えずにすんだに違いない。



「つかず離れず」



これは私達の付き合い方のキーワードになり

その言葉通りの未来を迎えることになる。




あの日、貴方は私に唐突に告げた。


結婚したい・・・



1996年4月28日


私はこの日を決して忘れない・・・

貴方が覚えてる?と訊いた

貴方のkissを

私は忘れたことがない。



あの夜、

月が妖しいまでに

美しく青白かったことを

今でもよく覚えてるほど・・・



ふいに訪れた

ほんの軽い挨拶のような

貴方の遠慮がちなkissは

他の誰かが私にした

どんなdeepなものよりも

鮮明に覚えていて


今でも貴方の唇が

私の唇に残した感触を

私は忘れることが出来ない・・・


貴方との

ほんの1、2回の

挨拶のようなあのkissを

私は今でも胸に

大切にしまってるよ・・・




本当はね・・・

あの時、

私のほうが

もっと激しいkissをしたかった、

もっと貴方を強く抱き寄せたかった。



今となっては

どうでもいいこと、


今となっては

過ぎ去ったことだと


遠い目をするしかないけど。