Runway Incursion | PTD ~ Pilot To Dispatch ~

PTD ~ Pilot To Dispatch ~

ヒコーキオヤジのひとりごと
 空の話、ときどきタイのネタ…

 「Runway Incursion」…直訳すれば滑走路侵入。
この瞬間を捉えた貴重な映像が手に入った。

http://www.youtube.com/watch?v=1N5THRSp4hM
 
 着陸寸前のB767-300の前をA340-300が
横切ってしまい、767がゴーアラウンドに入る。
 
 距離的にはずいぶんとあるように見えるが、
着陸時の低速と言っても旅客機は250km/h
ぐらいは出ているし、200t以上の機体の慣性は
かなり大きく、エンジンを最大出力に入れても
すぐに反応して上昇に入ってくれるものではない。
 
 もちろんパイロットは初等訓練の段階から
こういった状況を想定して訓練を続けているし、
頭の中には(こうなったら、こうしよう)という
オプションも書き込まれているから、このような
状態になっても別にパニックになるようなことは
ない。「バッカヤロウ!」ぐらいの言葉は吐くかも
しれないが…
 
 Runway Incursionは大きく分けて3つの
原因があると考えられている。

 1.管制官のミス
   着陸機を見逃していたり、担当機の場所を
   間違えたりして、あらぬ指示を出してしまう。

 2.パイロットの聞き間違い
   似たようなコールサインの機への指示を
   自機への指示と勘違いして反応する。
   あるいは「Stop」と「straight」を聞き間違える等。

 3.パイロットの思い込み
   実はこれが一番厄介。いつもはこの先で
   滑走路横断の許可がでるので、今回も
   そうだろう… などと思い込んでいると
   「Hold Short(滑走路の手前で停止せよ)」
   という指示が来たときに、(ほらきた…)と
   横断指示と思い込んだまま、「Hold Short」
   と復唱しながら滑走路を横断してしまう
   ケースなどがこれにあたる。誰もミスを
   しているという実感がないし、管制官も
   正しい復唱が来ているから安心して眼を
   離してしまうこともあり、大惨事になりやすい。
 
 新人よりもベテラン、アウェイの空港よりも
ホームの空港のほうがこのような「思い込み」に
よる誤侵入は多いと聞く。心の緩みといえば
そうなのだが…
 
 Incursionはこの動画のような飛行機対飛行機の
他にも、飛行機対地上車両などでも起こりえる。
着陸機に対する周波数と地上の機体、あるいは
車両に対する周波数が違うので、お互いに動きが
つかめないというのもあるだろうが、このような
事態を防ぐには、

 1.誰にでも、いつでも起こりえるという
   意識でフライトに臨む。
 
 2.(…だろう)は絶対にやらない。
   疑問に思ったら必ず管制官に聞き返す。
 
 3.常に最悪の事態を予測し、そこからの
   リカバリーをオプションに入れておく

 4.地上にいる場合、滑走路の手前では
   常に「停止」、例外的に「横断できる」
   ものだというマインドを植えつける。
 
などの準備が有効であると考えている。
 
 私は訓練生にファイナルで誘導路に他機や
車両がHold Shortしているのが見えたら「入って
来るものと思え」と教えながら、心の中で常に
ゴーアラウンドの準備をさせておくようにしている。