理由 (朝日文庫)/宮部 みゆき



東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。
殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。
そもそも事件はなぜ起こったのか。
事件の前には何があり、後には何が残ったのか。
ノンフィクションの手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの直木賞受賞作がついに文庫化。
(Amazon紹介文より)



部分部分、読ませるところがあるのですが、全体としては冗漫なつくりの、

悪く言えば著者の自己満足的な作品だと思いました。


物語そのものは、ひと言でいえば、「人情噺」

それをそのまま読者に供すれば良いところを、様々な方法でもって、作者自らがぶちこわしてしまっています。


まず、全体を貫く、ルポルタージュを摸した構成や、社会派的な道具立て(競売、占有屋などについての長すぎる説明)

これが、上記の「人情噺」的な物語骨格と、まるで水と油の如く合っていません。


それからクドクドと饒舌に語られる、人物(家族)たちのクロニクル。

これを書くことによって宮部さんは、「家族って何だろうね」という問いかけを読者に発しようとしたのでしょうが、

残念ながらそれもまた、人物造型の平板さ+冗長さによって、失敗してしまっているように思えます。


色んな家族が描写されますが、通底しているのは、

「家庭こそが人の心の有り様を決める」

「純粋な子供。汚い大人」

「結局心の底から悪い人間はいない」


という、ものの(人の)見方です。

こういうステレオタイプな描写は全て、先に言った「人情噺」、つまり一種の(『非合理極まる本当の現実』に対するアンチとしての)ファンタジーとしては、機能しますが、

宮部さん目指すところの社会派小説のお膳立てとしては、著しくリアリティを欠くと言わざるを得ません。

(もっともこういったアンバランスは、この作品だけでなく、彼女の小説全般に言えることですが・・・)


不満の残る読書でありました。