記憶の灯る部屋 第66部


霧は、

静かに、

確実に薄れていく。


“消える光”の記憶は、

いよいよ最後の真実へと

透を導こうとしていた。



夕暮れの赤は、

もうほとんど夜に溶けかけていた。


風は止まり、

霜の降りた草は動かず、

世界は息を潜めていた。


透は立ち尽くしていた。


目の前には、

ゆきとが沈んでいった影の跡だけが残っている。


光はもうない。

声もない。

気配もない。


ただ──

胸の奥に、

かすかな温度だけが残っていた。


透はゆっくりと息を吸った。


「……ゆきと……」


その名を呼ぶ声は、

夕暮れの残光に溶けていった。


すると──

風もないのに、

空気がふっと揺れた。


影の沈んだ場所に、

淡い光がひとつだけ浮かんだ。


透は息を呑んだ。


光は、

ゆっくりと形を帯びていく。


小さな肩。

細い腕。

伸ばされた手。


そして──

ずっと霧に覆われていた“目”。


ゆきとは、

最後の一度だけ、

透の前に姿を現した。


透は震える声で呟いた。


「……ゆきと……

 君の……目……」


霧はもうなかった。


記憶の灯る部屋 第66部終わり