エピソード26「ジャズ狂いの結末とネコの思い出」
エピソード26「ジャズ狂いの結末とネコの思い出」
ジャズのオーガナイザーに夢中になっているグータラ亭主のテイタラクをジーッと見守っていたサチ子さんは、結婚3年目に、自分の寝室に鍵をかけてしまった。そうなると、ボクと彼女の寝室を自由に通行できるのはネコどもばかりということになった。
ネコども、といったのは、家にネコが13匹もいたからである。初め、ネコ好きの彼女が飼ったのは2匹だったが、次の年に6匹に増えて、次の次の年には13匹に増員したのだった。うちのネコにはみんな去勢と避妊の手術がしてあったから、別に子供が産まれたわけではない。どうやら、近所の隣人の間で、あの東洋人夫婦はネコ好きの奇特な人たちだ、というあらぬ評判がたったらしい。春先になると、家のまわりに、あちこちダンボール箱がおいてある。何だろうと覗くと、セーヌ川に捨てるのはかわいそうだからなんて、手前勝手な走り書きのメモと一緒に、かわいいネコが「ミューミュー」とないている。
奇特な東洋人と思われている手前ではけしてなく、結局、彼女もボクもネコ好きという点では同じだったから、次から次に、1ダース以上も飼うハメになったのである。
ネコを散歩させるために、常時冷戦状態だったわれわれも、そのたびに一時休戦し、ネコどもをいくつものバスケットに入れて、友人の車で、ブローニュの森に連れて行った。森に放すとネコどもは、嬉しさのあまりか、本当に、後ろ足で立ち上がりカッポレを踊った。珍しがって、辺りのフランス人が寄ってくるので、日本語で説明してやると、「オー。カポレカポレ」と分かったような顔をしていた。
飼い主のボクもなんだか分からないフランス・ネコどものカッポレを、相手は、まるで見当違いに分かったような顔をするんだから、人間同士、こと男と女が本当に分かり合えるのは至難の業だな、とボクは。春の日差しの中で、ジーッとサチ子さんの横顔をみていた日のことを思い出す。
4年目の冬、ネコどもが、多分2ダースに増える春が来る前に、最初の結婚生活のカタストロフ(破局)がやってきた。
暖房の効いたアパートの部屋を彼女に残し、7階の屋根裏部屋に移ったボクは、寒気のために、左足が神経痛になってしまった。ボクの足元では、13匹の“全財産”を彼女と分け合った半ダースのネコが寒さにふるえながらカ細くないていた。
1998「ピクニックⅡ」

