どこから見てもバスなのに、「無軌条(むきじょう)電車」と呼ばれる珍しい乗り物がある。北アルプス・立山連峰を貫き、富山と長野を結ぶ観光路「立山黒部アルペンルート」で関西電力が運行する関電トンネルトロリーバスだ。

来月1日で開業から50年の節目を迎える一風変わった“鉄道”は地球225周分を走行し、約5710万人の乗客を運んできた。これまで物損事故を含めて「完全無事故」という記録を持ち、関係者は「50年間一度の事故もなく安全輸送に徹することができたのは誇りだ」と語る。

無軌条電車は道路の上をタイヤで走行。外観はバスそのものだが、屋根には集電装置「トロリー」があり、電車と同様に架線から電気を取ってモーターで走ることから「トロリーバス」ともいわれる。

関電トンネルトロリーバスは長野県大町市の扇沢駅から富山県立山町の黒部ダム駅までの6・1キロを結ぶ路線。雪に閉ざされる冬季を除き、1日20往復する。


法的にも鉄道に分類される。バスを運転する大型2種免許だけでなく、電車の運転に必要な国家資格「動力車操縦者運転免許」を取得しなければならず、「運転手」ではなく「運転士」と称される。


日本初の無軌条電車は昭和3年、兵庫県川西市に誕生したが、わずか4年で廃止。その後、大阪市や横浜市など各地で開業したものの、いずれもディーゼルバスに置き換えられ、高度経済成長期に姿を消した。


一方、39年8月に開業した関電トンネルトロリーバスは半世紀にわたり走り続けた。排ガスを出さないため自然環境にやさしく、急勾配に強かったためだ。路線の9割を占める長いトンネル(全長5・4キロ)の走行にも適していた。


プラットホームを備えた駅もあり、道路脇には勾配標など鉄道特有の標識が並ぶ。道路は上り下り共用の単線で、鉄道と同様に衝突事故を防ぐため、「タブレット」と呼ばれる通票を運転士が交換し、安全を確認して行き違う。


無軌条電車の元運転士で、現在は安全運行を統括する伊藤元紀運輸長(56)は「特有の運転操作を取得する必要がある。急ブレーキにならないよう常にきめ細かな運転を心がけてきた」と話す。


無軌条電車は現在、立山黒部アルペンルートに2路線のみ。車体はグレーの地味なデザインだが、側面には4本の黒いラインが入る。黒部川第4発電所(黒四ダム)にちなんだ関電社員の誇りでもある。


伊藤運輸長は車体を見上げ、「訓練を欠かさず全員がプロ意識を持って安全運行に取り組んできた。50年間、1件の事故も起こさなかったのはその成果だ」と胸を張った。

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