筋肉は生きる力、何歳からでも成長できる
100歳になった時、ベッドの上か、自分でトイレに行ける状態か――どのように最期まで生きたいか。長生きする人が増えた現在、体力の維持がさらに重要になってきました。いつまでも笑顔で楽しく暮らすための“準備”は、自らの選択でできます。80歳を過ぎてなお、全国で筋トレの講演や指導を行う、保健学博士で女子美術大学名誉教授の石田良恵さんに、生活の中に取り入れられる簡単な体づくりについて聞きました。
女子美術大学名誉教授
石田良恵さん
同窓会で再会した友達を前に――あなたの心の声は「え! 私より年下に見える」ですか、それとも「私の方が若いな」ですか。
体の状態は「今まで自分が生きてきた収支決算」です。背筋を伸ばし、さっそうと歩く姿には、若々しさがあふれています。筋肉が衰えると、見た目の若さを保てないだけでなく、立ったり、歩いたり、ついには食べ物をかむことやのみ込むこともできなくなります。
私は「筋肉は生きる力」と伝えています。そんな大切な筋肉は、50代から加速度的に減っていきます。減少を食い止め、筋肉量を増やすためには、積極的に使う必要があります。
運動習慣がない人は、まずは口を動かすことからでもいいので、始めてみましょう。
簡単なエクササイズを紹介します。①左右の口角を交互に上げる②思いっきり口の形を「い」「お」にする③頰を膨らませる④舌で歯茎全体を右回り、左回りになぞる――をおのおの10回。滑舌の良さをキープでき、顔のたるみ改善にも役立ちます。
体の姿勢を保つのも筋肉です。座っている時も、立っている時も、背筋をピンと伸ばします。猫背だと女性は、実年齢より6歳ほど老けて見えるという調査もあります。
また歩くスピードは、寿命と相関関係があるといわれます。ヨタヨタではなく、サッサッと進みたいものです。
ここで簡単な脚の筋力チェック。椅子に座り、立ちます。肘掛けやテーブルなどの補助を使わずに、「座る。立つ」を10回連続でできるでしょうか。できる方は、何秒かかるか計ってみてください。70歳以上の男性で17秒以内、女性は20秒以内であれば、平均以上の筋力です。結果はどうだったでしょうか。
筋力の維持と向上には筋トレ、体の柔軟性を保つためにはストレッチが必須です。筋トレとストレッチには異なる効果があります。それぞれ二つずつ紹介しますので、無理のない範囲で、行ってください(別掲)。
運動とともに、しっかり栄養を取ることも大事です。食が細くなり、一度に食べられる量が減った方は、間食が有効。オススメは、スケソウダラの白身で作られたソーセージです。これは加齢に伴い一番減りやすく、太ももの前などに多い速筋線維を増やすのにも役立ちます。常温保存ができるので、持ち歩きにも適しています。
体を動かすのがおっくうになるのは、加齢の影響です。例えば、階段よりもエスカレーターを選んでしまう――ここが分岐点。“楽”を選ばず、“ちょっと面倒に勝つ”ことが重要です。「これはトレーニング」と思って、弱い心に挑戦しましょう。私も取材を受ける前に、自宅で30分運動してから来ました。
何歳から始めても、筋力は増やすことができます。笑顔あふれる高齢者でいるために、一緒に頑張りましょう。
<筋トレ>
●座って片脚上げ
安定した椅子に背筋を伸ばして座る。腕は胸の前で軽く組む。背中は背もたれに付けない。
片方の脚を床と平行になる高さまで上げ、膝を真っすぐにしたまま、爪先を立てて足首を直角にする(スタートポジション)。
上げている方の脚をさらに上げ、上げきったら、スタートポジションに戻る。背中を丸めないように注意しながら、上げ下げを繰り返す。左右おのおの10回。息を止めずに行う。
●かかと上げ下げ
両脚を肩幅くらいに開き、背筋を伸ばして立つ。安定した椅子の背もたれや、壁に両手を添える。
腹筋に力を入れて、両脚のかかとをゆっくり20回上げ下げする。背中が丸まらないように気を付ける。
<ストレッチ>
●上体ひねり
四股を踏むイメージで両脚を左右に大きく開き、膝の上に手を置く。背筋を伸ばす。膝と爪先は同じ方向に向ける。
膝が内側に入らないよう注意しながら、片方の肩を地面に近づけるイメージで内側にひねる。痛みを感じない程度までひねったところで20秒静止。
終わったら、反対の肩も同様に行う。
●ふくらはぎ&アキレス腱伸ばし
両脚をそろえて背筋を伸ばして立ち、片方を前に踏み出す。踏み出した方の太ももの上に両手を置き、15~20秒静止。後ろ足のかかとが浮かないように、また背中が丸まらないように注意する。
終わったら、反対の脚も同様に行う。
【写真】柏木ゆり
石田良恵著『一生、筋トレ』(二見書房)