$北京の蝶



私の生活は、多分、友人知人達の中では群を抜いて
「視覚障害者」の方々を意識する機会が多いと思う。

このイベントは以前から知ってはいたけれど、
ドイツ発祥のコレが日本で開催されたのが10年も前だった(!!)
とは全く知りませんでした。

今回、このイベントの代表である金井真介氏から連絡をもらっていた、
3月にダラムサラに同行していた美元ちゃんhttp://www.miwonkeito.com/
にたまたま連絡する事があり、その際、このイベントに行かないか誘われ、
断る理由が全く無いばかりか、去年でも来年でも、先月でも来月でもない、
今、このタイミングで私の順番が巡ってきたんだ、と感じて行ってきました。


詳しくはホームページを見て下さい。
http://www.dialoginthedark.com/



舞台の暗転よりももっともっと黒くて暗い、
数センチ先の自分の手さえ見えない闇の中を
8名ずつのグループに別れ、
暗闇のプロである視覚障害者の方がアテンドになってくれ、
彼等の日常へと案内してもらいます。

そこは聴覚と触覚と嗅覚と味覚で「見る」世界。

私達は視覚障害者の方達が使用している様な白杖を渡され、
その杖で自分の一歩先を確認しながら歩いていきます。

腕に触れる木の枝、足元の砂、
乾いた植物のニオイ、声を掛け合う人の声…

想像できますか?
本当の暗闇を。

アテンドの方は不安そうに進んでいる参加者を選び、
その手を取って一緒に歩いてくれます。
それはまるで見えているかのように正確に。
そう、暗闇では私達と彼等の立場がちょうど真逆になるのです。

私達の日常の感覚で言う「見えている」様な彼等。

この日は食事をする、というイベントだった為、
我々はテーブル席へと案内されます。
ここからは「味覚」も使う時間。

暗闇の中、シェフの挨拶があり、
お料理がマクロビオティックだと説明を受けます。

そして飲み物のオーダーを聞かれ、初対面の方々との食事会。
自己紹介をすると、6人がひとつのテーブルに座っていました。


まず、自分の目の前、一番近くにある四角いお皿におそるおそる触れます。
…もうこの時点で皆さん、自分の皿の上だから(?)レタスだったり、
ココットに入った野菜(ピクルス)を素手で触って確認していましたね(笑)。

ほどなくしてパンプキンスープが運ばれて来たのですが、
簡単に口に入れられると思っていたスープが全然うまく運べない!!!
スプーンですくうのですが、口元に持っていくまでに
半分はこぼれてるし、うまく口に入れられないんですよ!

しかもワインを頼んでしまった私は、
ワイングラス(なんですよね…)を倒しそうで常にどきどき。

そしてメインとなるのがサンドウィッチだったのですが、
帰りに頂いたメニュー表によると
各自に天然酵母パンが配られ、テーブル真ん中の大皿3枚に
大豆蛋白のフライ、レンズ豆や小麦粉で作ったハンバーグ的なもの、
それからナスと玉ねぎ、トマトやレタスが乗っていまして。
大皿にはそれぞれ取り分けようにトングが置いてあり、
マスタードもまた小さなココット皿に…と言った具合で、
暗闇の中での作業の始まり。


トングがね、まず、もうどこにあるかわからないワケですよ。
で、掴んだのかどーかも全くわからないワケですよ。
で、置いたトングを次のヒトが見つけられないワケですよ。

誰かが取り分け?
上手に皆さんのお皿に載せられると思いますか?
残念ながらそんな高度なコトなど出来ません…。

試行錯誤、皆さん声を掛け合って色々試したのですが

結局、全員、ほぼ、
手づかみに近い状態だった様です…

見ず知らずの人達と。
もう、まるで途上国での楽しい食事風景…?
…いや、どちらかというとわんこやねこ。

更にマクロビを知らなければ「大豆蛋白のフライ」
と言われても色も何もわからないワケです。
帰りに頂いた今日のメニューにも写真の掲載はありませんでしたし、
我々はこの日のこの2時間、完全に視覚の無い世界を体験したのです。
それは今でも。


食事が終わり、我々の日常へ戻る。
…と、アテンドさん達は私達とその立場が入れ替わる。

照明のある世界へ戻ってきた私達は暗闇で声だけの自己紹介だったので
どの人達が同じテーブルにいたのか全くわからない。
美元ちゃんが
「同じテーブルの中に男性2人、女性1人のグループがいたよね。」と言い、
3人でいる男女に話しかけに行った(!)。

声を聞くと正に、私がマスタードの器を手渡しして頂いたヒトで。
40半ばのヒトかな?は見事に外れ、ウチの弟くらいのヒトでした(笑)。

でも見回してみると、同じテーブルのヒトを「見つける」という行為を皆していない。

暗闇の中ではあんなに声を掛け合って歩き、お話し、食事をしたのに。
視覚という情報ツールを手に入れた途端、再び最初に戻って
「初めまして」の様な状態なのだ。

美元ちゃんが言った。
「なんかさみしいね。」
私も答えた。
「そうだね。」

今、どんどんヒトとヒトの間をつなぐ為の様々な
テクノロジーと呼ばれているものが増えてる。

「さようなら」は携帯のメモリを消去したら完了。

あのヒトがどんな文字を書くのか知らない。

何ヶ月も声を聞いていないヒトが沢山いる。

連絡しなくても相手が今何をしているのか知ることが簡単に出来るコトさえ、ある。


コレって自分で生きてる感じがしないんじゃないのかな。


あの暗闇の中、目の前に置かれたお皿の上にある野菜すらフォークで満足に刺せなかった。
光の無い世界。黒という色しか無い世界。

私は盲目のカメラマンのコトを思い出していた。
光を失ったからこそ見えるものがある。
暗闇の中には我々の知らない、温かい光がある様にも思えて羨ましくもなった。



この体験は今後の自分の人生に少しずつ影響が出るコトは間違いないだろうな、
と思う。

皆さんも機会があれば是非行ってみてください。
普段は散歩と飲み物を頂く、のがセットです。
(季節事のイベントもあります)

2年前からココで定着してやっています。
唯一、ココ東京だけなので地方からも沢山訪れているそうです。


$北京の蝶