就職活動をしている。深刻に。

就職活動は本来、自分のやりたい職業に就くための動作である。

しかし自分が何をしたいのか、というとなかなか難しい。

幼い頃の夢は仮面ライダーだった。

小学生時代はゲイジュツカ、と言っていた。

中学生の頃は太宰治の生まれ変わりだと信じていたし、

高校生になるとぼんやりと、「世界征服」とか「不老不死」を考えていた。

大学生になってようやく、「真面目に」考えることになる。

それまでぼんやりと、「世界征服」とか「太宰治になりたい」とか、七夕の短冊に気軽に書くようなことばかり考えていた私が、現実社会の一粒になる。

温いことばかり言ってられない。憧れじゃ飯は食えないのだ。

それでもせっかくの人生だから、自分のやりたいことをやりたい。

弁護士にも、医師にも、司法書士にも私はなろうとは思わない。そりゃあ、年収の面では魅力的かもしれないけれども。多分私のしたいことではない。

いや、しかし、じゃあ自分のしたいことはなにか、というと、「世界征服」だから困る。

つまり私は自分がしたいことすらない。

超人に、なりたい。不射の射、みたいな。カッコいい超人になりたい。不老不死の仙人とか。

いやいや、相対性理論の歌詞みたいなことを言っても仕方がない。

 

こうした絶え間ない堂々巡りの中で、私が心躍るものといえば、ワインと(最近、香竄葡萄酒を入手した。デザートワインに分類されるものと認識している。ローヤルゼリー等々配合。赤ワインのポリフェノールによって血管に対して好影響を及ぼすといういわゆる「フレンチ・パラドックス」が加速するような気がする。あくまでその気がするだけだが)、澁澤龍彦や土方巽、中井英夫らの世界観。

「悪徳の栄え」は、かの有名なサド裁判のきっかけとなった作品である。これがわいせつ物として当時の警察に咎められ、訳者澁澤龍彦は数万円の罰金を支払った。

その作品がいま、時代を越えて私の掌中に!

これだけではない。澁澤龍彦訳のユイスマンス「さかしま」や、澁澤が日本に紹介したハンス・ベルメールの画集、澁澤龍彦蔵書目録「書物の宇宙誌」などなど……。

沁みる!実に、沁みる!!

すさんだ心にアングラの風がすーっと吹いて、黒い薔薇が咲くような心地がする。

 

そして馴染む!実に私の身体に馴染む!

さながらDIOの肉体にジョースターの血が馴染むように、暗黒世界の記述たちが無意識にも頭の中に入り込んで私の血肉になる。

この知識の砂が、何気なく生活している中で突然煌めく。ふと頭の中に「サテュリコン」という言葉が浮かぶ。そうなると私はもう、いてもたってもいられない。「サテュリコン」という言葉の正体が気になって仕方がない。急いで調べて、その書物を大学に走って借りに行く。そしてその知が手に入ったときの喜びったら!

鼻息荒く、両手を支配する知の感触を貪るのである。

獸のような、野性の快感を得る。

 

そして、深夜になると、大事に取ってあったワインを開けて、一人のんびりと、サティやらパレストリーナやらを聴きながら、趣味も雰囲気もめちゃくちゃだが、借りてきた本を読むのである。

 

迷いながら暗黒文化に流れ込みつつある私の血潮。本当にこれでいいのか?