東大後期試験の合格発表が3月23日にあった。前後期合わせた合格者数で高校別トップ30に入った公立高校は6校だけで、国立や私立の中高一貫校が圧倒的な強さを見せつけた。公立校にも躍進校があるが、ダウンした高校もある。明暗が分かれた理由を探った。

「今年から始まった新課程入試は負担増になったため、学習進度が速い中高一貫校が有利になることはわかっていました。今年のような改革期には、情報を収集・分析し、冷静に対策した高校が進学実績をあげます」

 石原さんはこう語る。前期の東大入試で例年より厳しい出題だったのは英語と数学。とくに数学は差がつきやすい問題だったという。

「公立高校の多くの生徒には数学が難しかったようですが、難関の中高一貫校では数学が得意な生徒が多く、差がつきました。現役の文系は数学のほか、地歴の点数もとれていません」

 公立高校の東大合格者数をランキング形式に並べてみると、上位は、1位日比谷(東京)、2位浦和・県立(埼玉)、富山中部(富山)、4位土浦第一(茨城)、千葉・県立(千葉)、6位西(東京)となる。全体に公立校が苦戦したなか、2位の富山中部は、一昨年7人、昨年18人、今年は27人へと躍進した。川腰善一校長は二つの要因があると話す。一つ目が新しいクラス編成。

「11年度に1クラス40人だった理数科を2クラス80人の探究科学科にして、富山県全域の意欲が高い生徒が集まるようになりました」

 今年の卒業生が同科の2期生。現役合格者15人のうち11人、浪人生12人のうち6人が同科の生徒だ。

「県のトップ校として、東大の合格実績が期待されています。1年の9月に、東大に進学したOBの講演会を開催。2年では希望者を対象に東大、東工大、お茶の水女子大を訪ねます」
 もう一つの理由は「浪人生の頑張り」だという。

「今までは、浪人してまで東大を目指す生徒は少なかった。探究科学科ができてからは『高い志を持って第1志望を諦めるな』と話しています。今年度から卒業生の支援も始めました」

 新課程入試を敬遠して浪人生が減った今年は、全体的に文系で優秀な浪人生が少なかった。その中で浪人生の合格者が大幅に増えたのが、7位の修猷館。昨年の3人から14人へと大幅に増え、現役を合わせると7人から21人になった。

「本校の生徒は3年間、行事や部活と勉強を頑張ります。第1志望が不合格だったときは浪人して再挑戦する生徒が多いのです」(小山潤教頭)

 逆に現役が大幅に増えたのは、4位の土浦第一、16位の県立前橋、20位の四日市など。土浦第一の進路指導主事の木村幸彦教諭は、

「現役の合格者は8人から15人に増えましたが、そのうち6人は英語が得意な女子。男子の合格者も比較的英語が得意でした」

 と話す。今年は英語が難しかったため、英語力で差がついたようだ。

 一方、伝統校、前橋の小笠原祐治校長は、今年の進学実績に胸をなでおろす。

「医学部志向の生徒が多いとはいえ、昨年の東大合格者は現役1人だけ。県民やOBに『前高どうした』と心配されたので、例年並みの12人に戻って、ほっとしています」

 昨年の不合格者の得点をみると、多くの公立高校の悩みである「地歴の遅れ」が敗因のひとつだったという。

「その反省から、地歴の授業速度を速くし、2次向けの添削指導を徹底しました」(小笠原校長)

 現役の合格者が2人から9人に増え、11人が合格した四日市では、1年のときに「東大志望者で数学ができる生徒には文系を勧めた」という。文系は数学が苦手な生徒が多いため、アドバンテージになるからだ。3学年主任の髙嶋真人教諭は地域性についてこう話す。

「学年360人のうち医学部と京大の志望者は毎年40人ぐらいずついますが、なかなか東大に目が向かない。このため、5~6年前から2年生になる前の夏休みに、希望者対象の『東京大学見学会』を実施しています」

 合格者数を減らしたのは2位の県立浦和、6位の西、7位の岡崎など。岡崎の進路指導主事の加藤高明教諭はこう話す。

「公立高校は、すべての科目の演習問題を深くやるのは時間的に厳しい。後期試験の合格発表が終わったら、各教科で分析し、限られた時間内でどう工夫すればいいか対策を考えたい」

 表にはないが、合格者が21人から10人に減った宇都宮(栃木)の進路指導主事の小島雄一教諭は、医学部志望者は浪人しても医学部を目指すのに対し、東大志望者は浪人を選ぶ生徒が少ないことを理由にあげる。

「理系の生徒の2次の数学と理科の点数が伸びなかった。演習時間が足りなかったと思うので、日々の授業内容や演習時間の確保について検討していきたい」

 後期試験では、29人以上が合格し、公立高校が健闘した。前期試験が終わってから後期試験までの期間にも、公立高校の現役生の学力は伸びるからだ。

「新課程入試の制度や仕組みについて理解が不十分な高校もあったかと思います。来年は対策をして、公立高校からの合格者が増えると思います」(石原さん)

 来年はどのようなランキングになるだろうか。