櫻葉のお話
※BLなのでご注意ください

















正面からジッと見詰めて来る先輩のその顔は
あの頃と変わらず、整った顔立ちをしているけど

確かにときめいてた筈の胸は静かなままで
もうしっかり〝 過去の人 〟になってるんだと思った。








「…今更、こんな話をされてもって思うと思うんだけど」

「はい…?」

「あの日…相葉の家に行った時。酷い態度を取った事、本当にごめん」




そう言って頭を下げる先輩の言葉で、一気に蘇るあの日の光景。

あの時は勝手に両想いだと思ってあんな行動をした結果、傷付く事になったけど


今はあの時の言葉を思い返して傷付く事もないし
逆に、先輩があの日の事を覚えてた事の方が驚きだった。




「え!いやっ…先輩、顔上げてください」

「でも…」

「オレ、もうほんとに気にしてないんで」

「相葉…」

「それに。あの日の事はどっちかって言うと、オレが謝らなきゃいけないし」

「え?」



あの時は、先輩と両想いだと思い込んでたからあんな行動をしてしまったけど


今になって思い返せば


先輩に好きって言われた訳でもなく、キス出来たからって勝手に盛り上がってたのはオレで



あの歳頃だったら、別にキスくらい興味本位でできるもんね。




そう思って今度はオレが先輩へ口を開く





「あの日、オレが勝手に暴走してて…。先輩からしたら、可愛がってた後輩に迫られて怖かったですよね」

「え…?」

「凄い勝手な…ほんっとに勝手な勘違いなんですけど!あの、もしかして両想い…なのかな?とか思っちゃってあんな行動しちゃいました…」

「相…」

「なので、謝るのはオレの方です!本当にすみませんでした!!」




ガバッ、と勢い良く頭を下げると脳裏に浮かんだのは何故かあの頃の先輩で

未練なんてものは一切ないけど、それでも記憶の奥に仕舞うようにきつく瞼を閉じた





「…相葉、違うんだよ」

「へ?」

「勘違いなんかじゃなくて…好きだったんだ。お前の事」

「……、え…」

「だからキスだってしたんだ」




困ったように微笑う先輩に、まさか…って気持ちと
やっぱりって気持ちが混ざって言葉に困る




「…俺もキスしたから、いけると思ったんだよ」

「なに、が…」

「あの日、家に誘われた時。俺もそういう事が頭に過ぎったんだ」

「………」

「だけど、いざそんな雰囲気になったら…ここで相葉とシたらこの先もう男しか好きになる事ないのかとか…もしそうなったらどうしようとか…」

「先輩…」

「今ならさ、そんな風に思う事ないんだけど…。あの時は知らない自分になりそうで怖かったんだ」

「…そうだったんですね」




初めて聞いた、先輩のあの日の気持ちがスッと胸に落ちる



そっか…オレは元々の対象が同性だったけど
そうじゃなかった先輩は、先輩なりに生まれる葛藤があったんだ




「何か…くふふ、良かったです」

「え?」

「あの頃のオレら、お互いに恋してたんだって知れて」

「…うん。そうだな」

「今だからこそ知る事が出来たんですね」




あの頃から時間が経って、オレも先輩も学校を出た世界を知ったからこそ向き合えた事実



最初から蕾のままで終わる恋だったんだ。




そう思うと妙にスッキリして心が軽くなった




「あっ!ラストオーダーどうします?」

「…相葉」

「はい?」



メニューを取ろうと伸ばした手を、不意に握られて先輩を見る




「先輩…?」

「俺はまだ、あの日の事を後悔してる…って言ったらどうする?」

「……へ?」

「勝手な事を言ってるのは分かってる。でも…あの頃みたいに、お前を傷付ける事はしないって約束する」

「え……」

「だから、もう一度チャンスをくれないか?」



ジッと見てくる顔はそのままに
少し強めに握られた手にハッ、として振り払おうとしたら






「そんな無駄な約束、して貰わなくて結構ですけど?」





不意に、背後から聞こえた声に視線を向けた先には





「しょー…ちゃん?」




何故か、ここに居る筈のない翔ちゃんが居た。










つづく






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お話の引越し作業なんとか順調に進んでるよ〜!!
無事に終わりそうで良かった♡
そして、みんな大好き翔くんの登場(*´˘`*)
このタイミングで来たって事は〜…???
次回で明らかになるけど、既に名探偵がちらほら*
やっぱり機転の利くかちこい子でしたね♬.*゚