舞賀パロ













「ごろー準備できたか?」

「うん」



ひょこっと顔を覗かせた、いち兄に返事をして
空っぽになった部屋を眺める




「おー。やっぱ二段ベッドだけだと広くなんなぁ」

「四郎が引っ越した時も広く感じたんだけどね」

「机とかでけぇの無くなると一気に広く感じるよな」




幼い頃から四郎と使うように与えられた、決して広いとは言えなかった筈の部屋なのに。


壁際にポツンと置かれた二段ベッドが妙に寂しさを与えてくる





「…あれも早く処分しないとね」

「ん?あぁ、ベッド?」

「うん」

「めんどくせぇし、まだ大丈夫だろ。ゆっくりやりゃいいよ」

「…そっか」



二段ベッドどうこうって訳じゃないけど

それでも、まだここに慣れ親しんだものがあるってだけで不思議とホッとしてしまう。




「ねぇ、」

「ん?」

「寝る時はソファーじゃなくて、ちゃんとベッドで寝なよ?躰痛めるし風邪引くし」

「ははっ、おう」

「あと、お酒も程々にね。俺も四郎も居ないと3人でずっと飲んでるんだから」

「最近はさぶちゃんのおネムが来たら寝るぞ?」

「そのままソファーでね。だからそうならないように、程々にしろつってんの!」

「あ、あぁ…はいはい」

「ごみの日とか分かるよね?可燃ごみは何曜日?」

「えっ!?えっと……すいよ…」

「火曜日だよ!!」

「マジ?おっしいなぁ〜…」

「惜しいとかじゃないのよ。ねぇ、ちゃんと毎週出してよ?」

「じろくんかさぶちゃんに任せるから大丈夫」

「いち兄も頑張れよ…あ!それからっ…」

「いや、もう覚えらんねぇからメモしてくんね?」




下で待ってくれてる3人の元へ向かう途中、ドアが開いたままのじろ兄の部屋に目を向けると

相変わらず服やら雑誌やらが散乱しててつい、眉間にシワが寄る




「おぉ。相変わらず元気な部屋だな」

「ねぇ、元気な部屋って何?」

「んふふ。さぶちゃんが包みに包んでそう言ってた」

「あの人そういう変換うまいよね…てか、仕事部屋借りたのに何で相変わらず部屋汚いの!?」


「安心しろ。仕事部屋も元気だろうからよ」

「何でそれで安心すると思うんだろう?」



けたけた笑ういち兄の後ろ姿が、いつもよりほんの少しだけ小さく見えるのは
今日、この家を出る事への寂しさがそう見せてるのだろうか。



ギシギシ軋む階段の音が、この家の古さを物語ってる




「…ねぇ、いち兄」

「んー?」

「…俺も四郎も……多分、じろ兄ももうすぐ出て行くじゃん。さぶ兄はまだ分かんないけど」

「おう」

「……寂しくない?」




寂しいなんて正に今、自分が抱いてる感情で

だけど、それと同時にワクワクしてる自分も居る




「ん〜…寂しい……よりも感動してるかも」

「感動?」

「一生懸命ハイハイして俺とかじろくん、さぶちゃんの後を追っ掛けて来るような小さかった双子がさ。自分の足で立って、自分で決めた未来を歩いてくんだなぁって」

「いちにぃ……」

「すげぇ、かっこいい弟たちに感動してるわ」






都市開発の影響で、立退きの話が持ち上がった時にこの家を出ると最初に決めたのは意外にも四郎だった。




『皆、同じタイミングでってのは無理だからね。たまたま俺のタイミングが1番だったってだけだよ』




そう言って昔、背比べをした時に残った柱の傷を少し寂しそうに眺めていた姿も




『一気にってなると、荷物の整理とかで時間掛るからさ。取り敢えず仕事部屋として借りて来た』




4人だけになった夕飯の席で、突然そう告げたじろ兄の言葉に見える葛藤も




全部ひっくるめて、俺はこの決断をしたんだ。






「あ!ごろちゃん用意できたの?」

「あ、うん」

「よしっ、じゃあ車だすか」

「なぁなぁ、じろくんとさぶちゃんはゴミの日知ってっか?」

「え?ゴミの日って…取り敢えずボックスの中に入れときゃいいんじゃないの?」

「二郎さんってホント…地頭はいいのになぁ」

「え、それ褒めてる?貶してる?」

「三郎さんは分かるの?」

「おーーい!ナチュラルに無視やめて!!」

「燃えるゴミが火曜日と金曜日だよ」

「さぶ兄あってる!合ってるよ!」

「おー。じゃあ、不燃ごみはいつよ?」

「へ?ふねん…ふねん……ふねん????」

「三郎さんってホント…地頭が可哀想だから」

「おい!お前それは貶してるな!?絶対に貶してるよな!?」

「え?まさか褒めて貰えるとでも……?」

「お前まじボッコボコにしてやるからな!」

「だーー!もうお前ら家の前でギャーギャー騒ぐな!!」

「それ、じろ兄もだからね」




5人集まればいつも通り、何ら変わらずゲラゲラ笑って飽きずに騒いで。

今日から独り立ちするけど、きっとそういう根本は変わらず今までと同じなんだろうなって思うと

さっきまでの寂しさもなんだか薄まっていく気がする





「せっかくの旅立ちだ。めーいっぱい楽しめよ」




優しく微笑って、力強い言葉をくれたいち兄の言葉に大きく頷いた。











END







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潤ちゃん独立という事でこんなお話になりました*
最後までファンファーストな潤ちゃん。
そんな潤ちゃんを支えたいって想うのはファンは勿論
潤ちゃんの周りの人も思ってくれてるよね。
これからの未来、温かい環境の中でお仕事できますように*
これからもよろしくね(*´ `*)