櫻葉のお話
BLなのでご注意ください



ー 過去編 ー














自分の恋愛対象が同性だと自覚したあの日から
初めて、オレにも想いを寄せる人が出来た。







「おっ、相葉なーにしてんの?」

「わっ!せ、せんぱいっ…」

「はははっ!声掛けただけなのに、そんな焦る事かぁ?」




ぐっ、と寄せられた顔でバクバク鳴る心臓に気付かないフリをして
背けたオレの顔は、きっと赤くなってる




「あっ!それチョコクロワッサンじゃん!」

「へ?あ、はい!」

「すげぇ〜…それ購買ですぐ売り切れるだろ?」

「へへ」

「ん?」

「さっき、オレのとこ実習だったんですよ。だから…ね?」



オレの言いたい事をすぐに理解してくれたらしい先輩は、はいはいと頷く




「だから今日は異様にパンの売り切れ多いのかぁ?」

「ひゃははは!さすがにオレのクラスだけの話じゃないですよぉ」

「ホントかよ」




そう言って、伸びて来た手はオレの頭に置かれて

不思議に思って顔を上げると、酷く優しい顔をした先輩がこっちを見てるから


気持ちが溢れ出ないように目を逸らした。




「っ、あ!あのっ、パン!」

「へ?」

「先輩、パン買えなかったんですよね?」

「おぉ。だから定食にしよっかなーって」

「焼きそばパン!」

「ん?」

「え、えと…焼きそばパンじゃなかったら、コロッケパンとかカレーパンも…メロンパンとカスタードもありますよ!!」



パンの入った袋をずいっ、と差し出すとポカンとした顔から一変して





「ふはははっ!お前どんだけパン食うつもりだったんだよ」




眉を下げて笑いながら、頭に置いてた手をそのままに優しく叩くその仕草にも距離にも




「はっ!チョコクロワッサン!!」

「それは貴重な戦利品だからいいよ」

「はんぶんこずっこで!」

「え?半分…なんてぇ?」

「はえ?」




与えてくれる優しさにも


大きく跳ねた心臓が飛び出ないように、ぎゅうっとシャツの胸元を握りしめた。









「先輩、これはどうするの?」

「ん?ここは、こっちの公式を持ってきて」





先輩を好きになってから数ヶ月。


今も変わらず仲良くしてくれてる先輩と、少しだけ変わったのは



オレが敬語をあまり使わなくなった事
休みの日にも遊びに行くようになった事



それと



「…相葉」

「はい?」

「お前、香水つけてる?」

「つけてないけど…なんで?」

「…何かいい匂いする」




先輩の中にも、確かにオレへの変化が生まれた事だろうか。




「シャンプー変えたからかな…」

「そうなのか?」

「先輩この匂い好き?」

「好きっつーか…まぁ、普通にいい匂いだなって…」

「ふふ。そっか」

「…なぁ、」

「ん?」




放課後の誰も居ない教室で

廊下にも人気はなく、聞こえて来るのは部活をしてるグラウンドからの声くらい



男子校というこの環境で、ましてや1人は確実に目の前の先輩に恋心を抱いてる事

方やその先輩は最近、目の前に居る後輩へ前とは違う変化が生まれていた事



今この時に揃ったその材料だけでも十分なのに




「俺さ、お前がすげぇ可愛いくて仕方ねぇって思うんだけど…ヤバイよな」




そんな事を言われてしまうとオレの我慢なんて利く筈がなくて





「…オレなんてもっとヤバイですよ」





そう言って初めて触れた先輩の唇は、少しカサついていた。












つづく








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過去編ほんとは1つに収めたかったのになあぁ〜( ᷄ᾥ ᷅ )
次で過去編おわりなので!!
もう少しだけお付き合いお願いします( .ˬ.)"