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「そういえば六花はん、十六歳やと、言ってましたけど」
「…………あ、はい」
俊太郎さんは秋斉さんに訊ねられた時のことを言っているのだろう。
痛みの正体に気を取られて返事がワンテンポ遅れてしまったが、彼は特段疑問を持つわけでもなく、話を続けた。
「高校二年生で十六やということは…………誕生日はまだどすか?」
「……………………そう、です」
誕生日。
本来ならば、祝われ、よろこびに溢れるべきこの日。
ただわたしにとって誕生日のその日は、別の意味を持っている、特別な日だった。
「いつどすか?」
事情を知らない彼は、当たり前のようにその先を訊ねる。
「…………十二月二十六日、です」
でき得る限り、何気なく答えた。普通の人と、同じように。
いつもならば、素直に日付を答えず、別なことを告げていた。それを聞いたすべての人が、気まずそうに目を逸らし、それ以上は訊ねることが出来なくなる言葉を。
しかし。最近、考えていた。
わたしはいつか、このことに向き合わなければならない。この先に目指すべきもののために。俊太郎さんが教えてくれた、自分の夢の実現のために。
「…………もうすぐやないですか」
わたしの告げた日付が迫っていることに、俊太郎さんは微かな驚きの声をあげた。
「はい…………もうすぐ、十七になります」
わたしの生まれた日は、クリスマスの、次の日。
誕生日が近い友人は、クリスマスと一緒に祝われて嫌だ、とこぼしていた。
しかし、わたしの家の両親は、いつもきちんと祝ってくれていた。クリスマスも、わたしの誕生日も。
いろんな思い出が悲しみとともに溢れ出そうになる。
「…………ご両親のこと、思い出させてしまったやろか……?」
覆い隠しきれない気配を、俊太郎さんは敏感に感じ取ってくれる。
「…………大丈夫、です」
わたしに届いたやさしげな声が、悲しみに触れたわたしの心を落ち着かせてくれた。
(それに…………)
楽しかったことまで、悲しい思い出にしたくない。
そう思っているのなら、きっと、きちんと向き合わなければいけない。
「…………こんなことに巻き込んでしもたことやし、欲しいものがあれば言うて?プレゼント、奮発しまっせ」
わざと明るく告げてくれた俊太郎さんの言葉を聞いて、わたしはひとつ、決心をする。
「…………その言葉に甘えても、いいですか?」
ひとりで向き合う勇気も、現実的な手段も、今のわたしには乏しい。
だから。
「もちろん、わてが出来ることやったら、なんでも」
わたしの問いに、躊躇いもなく頷いてくれたこの人に。
「お願いがあるんです…………」
今、わたしが頼れるのは、俊太郎さんだけだ。
ほんの少し前まで、すれ違うことすらなかったかもしれない、この人。
(今は…………)
両親のことを打ち明けることが出来た人。
彼の家の事情を知って、共犯者のような、そんな関係にある人。
きっと、わたしでは理解しきれないほどのものを、抱えているこの人に。
(それでも…………)
わたしにやさしさをくれる人に。
「力を、貸していただけますか……?」
過去と向き合うその瞬間に、そばにいてほしい。
自分が思っていた以上に、自分はこの人に心を許している。
「その日、一日を、わたしにください」
そして、彼も同じようにわたしに心を許してくれたらいいのに、と。
「つれていってほしい場所が、あるんです…………」
それだけは、今のわたしにもはっきりわかった。
《続く》
