今日も残業なし、18:30頃には家の最寄り駅に着いてしまいこのままでは19:00前に家に帰ることになる。
いつもと違う帰りのルートを選び、家の方向を無視して通り過ぎ、普段は休日に車で行くスーパーへ足を向ける。
私はいつも寄り道先を探している。

まだ明るい住宅街を歩く。暑さを感じてはいないがじんわり汗をかく。
このまま真っ直ぐ行けば公園に突き当たり、そこを右に曲がってしばらくすればスーパーだ。
汗を引かせるため風を受けながらのんびり歩いていると自転車に乗った男の子が横を通りすぎながら
「こんにちは。」とさりげなく挨拶をしてくれた。
しっかりした子だな、と感心して
「こんにちは。」と決して適当にならないように返した。

通り過ぎたかと思ったら
「どこに行くんですか?」思いもかけない問いかけ。
「・・・。」 (私に?)
「スーパーに行こうと思って。」 思わず立ち止まって答えた。
男の子も自転車を止めて
「どこのスーパー?あっち?」
(え?向かっている方向の反対だけど?)
「え?私行き過ぎている?」 (いや、そんなはずない。車だけど、毎週のように行っているスーパーを間違うはずない。)
「スーパーの名前は?」と男の子。
「〇〇〇」 (この辺り他にスーパーあったっけ?もしかして×××のこと?)
自転車を止めて初めて私の方をしっかり見る男の子。
なんだか顔を見ているのか服装を見ているのかうまく視線が合わない。
思わぬ展開に少々あせる。
「わかるからついてきて。僕すぐそばのマンションに住んでるから。青いマンション。」
(青いマンション?あったっけ?っていうか・・・???)
私の目の前にいるのはどう見ても小学生2年生か3年生の男の子。
ヘルメットをかぶって新しい自転車の自慢話をしながら先へ行ってしまったかかと思えばUターンをして帰ってきたり、
脇道へそれたかと思ったら集合住宅の敷地を突っ切って戻ってきたり。
その間もずっと私に話しかけてくる。
正直よく聞こえないが、こんなに私に集中してくるこの子は何なんだろう?

「こっち!」といってまた集合住宅の敷地へ消えていった。
「え?」 (いや、不法侵入だから。っていうか青い建物?おうちに帰ったのかな?)
私はそのまま真っ直ぐ道を通って建物を通りすぎたら青い建物の向こうから大きな声で「こっち!」と男の子。

「勝手に入れないよ。」なぜか私も同じくらいの大きな声で返していた。
何か話しながら(多分、そっちからも行けるけどこっちのが近道、とか。)大回りしてこちらに自転車で向かって来た。
そしてもうスーパーのバックヤードには到着している。
「ここをまだしばらく歩いて行って道沿いに入口があるから。」と少年。
急に恥ずかしくなったようにも見えるし、もうお別れで寂しそうにも見える。
「親切にどうもありがとう。気を付けて帰ってね。本当にありがとう。」と彼に感謝を伝える言葉を必死で頭の中で探した。
小さく「うん。」と言って男の子は自転車で去っていった。
しばらく歩いて振り向いたらさっきの青い建物の階段を上る男の子の姿が見えた。
やっぱりあそこが彼の家。部屋に入るところまで見送った。
もしかしたらこっちを見るかも。なんて淡い期待を抱いたけど、彼はそのまま家のドアを開けて入っていった。
手を振りそびれたけれどなんとも温かい気持ちになった。

白ワインを買ってリュックに入れてスーパーを出ると一日中曇っていたはずなのに、
思わず声が出そうになるくらいきれいなピンクの夕焼けが一面の雲を染めていた。