NHKBSの「英雄たちの選択」のタイトルが一時期だけ変わった時がありました。テーマで東條英機を取り上げた際に「昭和の選択〜太平洋戦争 東條英機 開戦への煩悶〜」と看板が架替えられました。

戦犯の是非云々はさておきミスリードした敗戦の責任の一端があったのは事実ですし、東條英機が「英雄」ではないのは確かですが、やはり最近自由になってきたNHKにも最低限のタブーはあるんだな、と安心しました。

 

信長や秀吉も大河ドラマで扱われて人間性が肯定的に評価されることが多いですが、その時代独特の価値観があったにせよ裏で残虐非道なことを数多くしてきたことは歴史上の事実です。特に秀吉は私は簒奪者としての負のイメージが強すぎてどうも好きになれません。織田家から天下を簒奪しといて「秀頼を頼む」なんて虫が良すぎますね…頼んでも無駄でしたが。

 

そうした功罪相半ばする世界史上の有名人物としてヒトラー・スターリン・毛沢東の三人を取り上げ、最高権力者にのし上がるまでの凄まじい政治闘争や、掴み取った権力を維持するための弾圧や強権政治を解説したのが本書です。

この本が面白かったので他の著作も読んでみたいと思って検索してみたら音楽史や芸能史がご専門みたいで意外でした。


ヒトラーについては別な本で読んだことがありましたが、最初、軍の諜報部員として偵察目的でドイツ労働者党の集会に参加していたら、討論に参加してついその卓越した演説能力で聴衆を熱狂させてしまい、入党を懇請されて政治活動にのめりこんでいった、というきっかけが面白いですね。よほど演説が巧かったんでしょうから、ここでなくてもいずれどこか別なところでも花?開いたと確信します。


スターリンはイデオロギーも何も無く、銀行強盗!や富豪の子供の誘拐!のような荒くれ仕事をして党の資金をかき集める役目を担っていました。レーニンに忠実だったところを買われて自動賛成票として指導部に引き上げてもらいましたが、レーニンの力が衰え始めると政敵どうしの争いを巧みに操り、自分に対抗しうる政敵を次々と潰していきます。そして療養中のレーニンに自分だけが面会するようにして外部と遮断してから、次第に政治的に対立するようになります。

レーニンは憤慨して遺書に「スターリンを指導者にしてはならない」と書き残しますが、他の幹部の批判も書いてしまったため公開されても真剣に取り合う者はいませんでした。その後の権力闘争を巧みに勝ち抜いたスターリンが後継者となり、さらなる大惨劇に繋がります。

 

それぞれがパラレルストーリーのように説明されるよりも、人物ごとにまとめられていたほうが構成がシンプルで分かりやすかったと思います。

「悪から学ぶ」という訳ではありませんが、3人とも他人のネガティブな心理を悪用するのが巧みだった点では抜きん出ているので、そうしたものから身を守るためにも歴史的事実を知っておくべき一冊と言えます。


個人的にはここに秀吉が混ざっていたらもっと面白い一冊になったような気がします。規模が違いますが、お三方と通底するものを感じます。