いちおう推理小説の形を取っていますがこの作品の目的は「大学で日本古代史を専攻する女性助手」という主人公を通して、松本清張が自らの古代史に関する仮説を提唱することにあったと思われます。

 

歴史小説や時代小説でも史実とフィクションの境目は難しいところですが、仮説となるともはや小説より歴史専門書や論文に近いテイストになってしまいます。

この作品にもいちおう主人公にまつわるストーリーは存在するのですが、他の作品と比べると正直取って付けたような感じが否めません。あくまで仮説がメインです。

 

飛鳥時代の謎のひとつである酒船石や益田岩船、亀石や猿石、兵庫県高砂市の石の宝殿などの奇妙な石造遺物について、清張は当時ペルシア人が日本に渡来していた形跡を踏まえ、日本書紀で「変わった人」扱いされている斉明天皇が築いた「両槻宮」に付属するゾロアスター教の拝火壇や薬剤を調合する設備(清張はぼかしていますが、儀式に使う麻薬の類?)の一部ではなかったのかと推理しています。

 

酒船石
 
益田岩船
 
さて、「火の路」が出版されたのは1975年、清張が亡くなったのは1992年の夏でした。
同じ1992年に酒船石の近くで石垣が見つかり、斉明天皇の両槻宮についての日本書紀の「宮の東の山に石を塁ねて垣とす」という記述に関係した遺跡ではないかとされています。
さらに2000年に大規模な発掘が行われ、湧水設備(下の画像右)とそれから水を受けたと考えられる水槽のような石造物が二つ見つかりました。これと酒船石を組み合わせて流水を利用した祭祀遺跡であった可能性が高まりました。
 
古代史についての様々な仮説や推論が出されて、それらが後の発掘や新発見で実証されたり否定されたりすることで、ある意味この作品は永続していくと言えるのかもしれませんね。
正直専門的過ぎてちょっと飛ばし読んだ箇所もあるのですが、出版された当時は高松塚古墳の壁画発見など古代史への関心の高まりもあってかなり売れたそうです。