≪この小説はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません≫

 

 

そのお寺は都心からは電車で2時間半ほどかかる、北関東の山間部にある小さな目立たないお寺である。

 

堂宇は江戸時代の初期に建てられた古いもので、境内には手入れの行き届いた季節ごとの色とりどりの草花が植わっている。とある観音霊場巡りの札所にもなっているため土日にもなると参拝客が目立つが、平日は境内はひっそりとしている。

 

そんな住職に書画の才があり、境内の様々な草花を求めに応じて御朱印の横に書き添えていたところ、昨今の御朱印ブームでそれが色々な媒体で紹介されるようになって、住職の飾らない気さくなお人柄もあって話題となった。お寺には霊場巡りのお年寄りとは違う、珍しい御朱印を頂こうと訪れる若い人たちが訪れるようになった。そうした人々への住職の丁寧な応対がさらに人気を呼び、遠方からもお参りに来る人が増えるようになった。

 

しかし目立たない観光地が世界遺産に指定されて大勢の観光客が来るようになった時のように、その大勢には一定の割合で「困った人」もいるものである。そういう人は社会に一定の割合でいるものだから致し方ない。その観光地だってヨソの国の観光客が増えて静けさを失い、ゴミは増え、品の無い土産物屋が増えて、様々なマナー違反が目立つことで「有名税を支払う」ことになる。昔のままを保ってほどほどに有名になるということはとても難しいことに思う。

 

続く赤薔薇