ここ最近観た映画の中でも
特に胸が揺さぶられた作品
『ロストケア』

誰からも好かれる訪問介護士
斯波宗典は
仕事の丁寧さだけでなく
気配りや優しさから
介護士仲間にも介護家族からも
絶大な信頼と人気がありました
しかしある日
担当している家で
訪問介護センター所長と
その家に住む要介護男性の死体が発見され
容疑者として斯波が浮上
検事の大友秀美が斯波のアリバイを崩し
取り調べの結果
多くの老人を手にかけたことは認めたものの
自分のした行為は
《殺人》ではなく《救い》だと主張します
そんな二人の対峙を描いた
社会派サスペンスの今作品は
親の介護に携わったことのある人なら
心臓をえぐられるような
強い衝撃を受けることでしょう

経済的な余裕があり
手厚い支援を受けられる
施設に入所できる家族もいますが
「認知症の父親は働けなくても
息子のあなたは働けるでしょう」
と言う理由で
父親の24時間介護を
強いられているにもかかわらず
生活保護すら受けられない
息子
斯波の亡き父親役には柄本明さんが
キャスティングされているのですが
この父子のシーンが素晴らしくて
映画館で声を殺して号泣しました

映画の冒頭に
十字マークが出てきて
それがタイトルの「ト」に変化するのですが
これには何か伏線があるかも
と
頭の片隅に留めながら観ていると
人にしてもらいたいと思うことは
何でも
あなたがたも人にしなさい
(マタイによる福音書7章12節)
聖書の中の一文が出てきたり
大友検事の母親が
クリスチャンであるなど
キリスト教にも絡めていることが
わかります
斯波の名前に
“宗”の文字があるのも
ただの偶然ではないように思いますし
ラストシーンでは
窓の格子で十字架を映すあたり
きちんと
オープニングとリンクされていて
こういう演出好きなんです、私

予告編を観た時は
2016年7月に津久井やまゆり園で起きた
元職員・植松死刑囚による
大勢の入所者を殺傷した事件が
頭を過りました
あの痛ましい事件を報道で知り
あってはならないことと
憤ったことを覚えています
しかし今回の斯波の事件は
あの事件とは異なり
安楽死や尊厳死に関わる話で
決して他人事ではなく
誰もが老いていき
やがて我が身にも訪れることなのだと
強く意識する作品となっていて
辛くてつい目を背けたくなる
社会問題を
真剣に考えるべき時なのではないかと
強く感じました
実際、介護をしていた親族が
被介護者を殺害したり
無理心中した事件は少なくないのです
最期まで
明るく楽しく幸せに過ごしてほしい
そんな祈りにも似た願いが
普通に叶えられる社会であって
ほしいですね
https://rkb.jp/contents/165007/